ただただ君が好きでした

「じゃあ、そろそろ帰ろうか。遅くなると危ないし。アイツに抱きしめられたなんて気持ち悪いから風呂でしっかり体洗えよ」

「はい!でも、マナ先輩にぎゅってしてもらったんで、大丈夫かも」

「え?俺、そんなことした?」

照れ臭そうに目線を外すマナ先輩がすごくかわいかった。

「じゃあ、家の前まで送る」

マナ先輩は自転車を押しながらゆっくりと歩いた。

ほんの数分の距離。
もっと一緒にいたくてゆっくりゆっくり歩いた。

バイバイって手を振ろうとした時だった。



「花菜、何してるんだ」

ちょうど帰ってきたお父さんと遭遇してしまった。
飲み会にしては早い帰宅。
タイミング悪い。


「すいません。夜分に」

とマナ先輩が丁寧に謝ってくれた。

「お父さん、違うの。私相談があって、高校の先輩に話を聞いてもらってて」

「まあ、いい。こんな時間に外に出るなんて危ないだろう。君も気をつけて帰りなさい」


私は、マナ先輩に謝れないまま、家に入った。


「お父さん、本当に誤解しないで。実は、テニス部でいじめられててね、そのことを相談に乗ってもらってたんだ」

「そんな嘘、信じると思うか」

お父さんはそう言って、寝室へ行ってしまった。

お父さん、変わったな。

こんな人じゃなかったのに。


こんな生活よりは、マシになるのかな。
新しいお母さんができて、私は幸せになるのかな。

お母さんって呼べるかな。
新しいお母さんのこと。

私は、マナ先輩と話したことを思い出しながら、お風呂に入り、眠りについた。

ごめんね。
マナ先輩、何も悪くないのに。
あんな嫌な態度をとるお父さんが恥ずかしい。

今日はいろんなことがありすぎて疲れた。



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