ドルチェ~悪戯な音色に魅せられて~
「かーのんっ」
「恵理、どうしたの?」
私が隼人さんのピアノに寛いでいると、恵理がやってきて向かいに座った。
昂さんの前から離れるなんて、絶対しなそうだったのに。
「花音、隼人サンと上手くいって良かったじゃん」
「えっ!それは、どうなのかな……」
「どうなのかなって。どう見ても意気投合してる感じだけど?」
「私と隼人さんが!?」
「花音って、気になる人にこそ闘争心丸出しでツンツンするじゃない」
「……」
「隼人サンも花音といると楽しそうだよね」
改まって言われると、浮かれちゃうかも。
私は頬を染めて口を尖らせた。
ここからだとよく見える、隼人さんの指先。
今日はなんだかいつもと違う。
鍵盤を舐めるような手つきと悪戯に跳ねるリズム、多彩な音色につい昨晩のことを思い出してしまった。
「うがーっっ」
「……花音?」
頭を抱えて邪気を振り払い、ドキドキする心臓を押さえつける。
アルコールの低いカクテルを品もなくゴクゴクと半分飲んだ。
昂さんが出してくれるお酒はどれも、不思議と私好みで驚いてしまう。
女たらしなだけではなくて、もしかすると人を見極めているのかな?
「恵理は、どうなの?」
「ワンナイトラブからエンドレスラブに向けて奮闘中」
「あっそ」
「でも昂くん、辛そうなの……」
「辛そう?」
「私が好きっていうと、凄く苦しそう」
「……なんで?」
「わかんないけど、ほっとけない」
「昂はずっと続く気持ちなんて、そんなの有り得ないと思ってるんだよ」
「隼人さん!」
「昂の父親、なかなかの遊び人で俺らも迷惑被ってたし」
「え……」
「実際、上っ面だけで金目当てに近づいて来るのばっかりだから。昂も適当に遊んでるんだわ」
だから昨日も、目の前で言い争っていても冷たい顔してたんだ。
「昂くん。そっか……」
「恵理?」
「隼人サン、教えてくれてありがとう」
「いいえ」
「私、頑張るっ」
恵理は意気揚々とカウンター席に戻って行く。
私はクスリと笑って、残りに口づけた。
「……私からも、ありがとうございました」
「んー。貸しがあったから」
「貸しって?」
「イイコト。俺もお返ししたの」
「ぶっ!」
「吐くなよ。ま、そろそろ落ち着いてもらわないと困るしなー」
「……昂さんって、何歳なんですか?」
「35」
「みっ!」
「見えない?」
私はコクコクと首を縦に振る。
隼人さんと同じくらいかと思ってた……。
「あいつ心は少年のままだから」
「あはは」
「ところでお前、俺のピアノに感じてたろ?」
「ぶっ!」
「いやらしい女だなぁ」
「違いますっ!なんか、いつもと違うなって思ってただけ!」
「…………え?」
隼人さんが驚いたように目を見開く。
あれ、なんかまずかった?
「あっ、素人がすみません。変な意味じゃなくて」
「…………いや。うん、部屋に戻るか」
「へ?」
「行くぞ」
「隼人さん!?」
私の腕を取り強引に立たせると、本当に出口へ向かう。
首を傾げていると昂さんに呼び止められた。
「あれ、隼人どうした?」
「悪い。今日はやめとく」
「……了解」
どうしたんだろう?
まるでアイコンタクトを取るような二人に違和感を覚える。
どこか遠くを見つめる隼人さんの瞳に、私の胸の中に不安が淀んだ。
「恵理、どうしたの?」
私が隼人さんのピアノに寛いでいると、恵理がやってきて向かいに座った。
昂さんの前から離れるなんて、絶対しなそうだったのに。
「花音、隼人サンと上手くいって良かったじゃん」
「えっ!それは、どうなのかな……」
「どうなのかなって。どう見ても意気投合してる感じだけど?」
「私と隼人さんが!?」
「花音って、気になる人にこそ闘争心丸出しでツンツンするじゃない」
「……」
「隼人サンも花音といると楽しそうだよね」
改まって言われると、浮かれちゃうかも。
私は頬を染めて口を尖らせた。
ここからだとよく見える、隼人さんの指先。
今日はなんだかいつもと違う。
鍵盤を舐めるような手つきと悪戯に跳ねるリズム、多彩な音色につい昨晩のことを思い出してしまった。
「うがーっっ」
「……花音?」
頭を抱えて邪気を振り払い、ドキドキする心臓を押さえつける。
アルコールの低いカクテルを品もなくゴクゴクと半分飲んだ。
昂さんが出してくれるお酒はどれも、不思議と私好みで驚いてしまう。
女たらしなだけではなくて、もしかすると人を見極めているのかな?
「恵理は、どうなの?」
「ワンナイトラブからエンドレスラブに向けて奮闘中」
「あっそ」
「でも昂くん、辛そうなの……」
「辛そう?」
「私が好きっていうと、凄く苦しそう」
「……なんで?」
「わかんないけど、ほっとけない」
「昂はずっと続く気持ちなんて、そんなの有り得ないと思ってるんだよ」
「隼人さん!」
「昂の父親、なかなかの遊び人で俺らも迷惑被ってたし」
「え……」
「実際、上っ面だけで金目当てに近づいて来るのばっかりだから。昂も適当に遊んでるんだわ」
だから昨日も、目の前で言い争っていても冷たい顔してたんだ。
「昂くん。そっか……」
「恵理?」
「隼人サン、教えてくれてありがとう」
「いいえ」
「私、頑張るっ」
恵理は意気揚々とカウンター席に戻って行く。
私はクスリと笑って、残りに口づけた。
「……私からも、ありがとうございました」
「んー。貸しがあったから」
「貸しって?」
「イイコト。俺もお返ししたの」
「ぶっ!」
「吐くなよ。ま、そろそろ落ち着いてもらわないと困るしなー」
「……昂さんって、何歳なんですか?」
「35」
「みっ!」
「見えない?」
私はコクコクと首を縦に振る。
隼人さんと同じくらいかと思ってた……。
「あいつ心は少年のままだから」
「あはは」
「ところでお前、俺のピアノに感じてたろ?」
「ぶっ!」
「いやらしい女だなぁ」
「違いますっ!なんか、いつもと違うなって思ってただけ!」
「…………え?」
隼人さんが驚いたように目を見開く。
あれ、なんかまずかった?
「あっ、素人がすみません。変な意味じゃなくて」
「…………いや。うん、部屋に戻るか」
「へ?」
「行くぞ」
「隼人さん!?」
私の腕を取り強引に立たせると、本当に出口へ向かう。
首を傾げていると昂さんに呼び止められた。
「あれ、隼人どうした?」
「悪い。今日はやめとく」
「……了解」
どうしたんだろう?
まるでアイコンタクトを取るような二人に違和感を覚える。
どこか遠くを見つめる隼人さんの瞳に、私の胸の中に不安が淀んだ。