ドルチェ~悪戯な音色に魅せられて~
私達はしばらくアルコールとサウンドに酔しれながら談笑した。
何曲か演奏して椅子を立った隼人さんを、昂さんが呼び止める。
「隼人、あちらのマダムから」
「はぁ?俺は仕事なんだから飲まないっていつも言ってるだろ」
「たまには相手してやれよー」
「断る」
……あぁ、なるほど。
このバーに女性客が多いのは、この二人のお陰だ。
昂さんは眉を上げると、違うお酒を作り直して私の隣の席に置いた。
「んじゃー、花音ちゃんから」
「えっ、私!?」
「隼人にピアノの感想言ってあげてよ」
「でも……」
仕事中なんだよね。
感動したのは確かだから、せめて感想だけでも伝えられれば。
「うーん。ちょっと待ってくださいね」
「そんな無理に考えなくても」
「違いますよ、言葉にするのが難しいだけ」
気持ちを言葉にしようと隼人さんを見つめ上げながら唸っていると、不意に視線を外される。
そのまま仕方なさそうに隣に座り、グラスを煽った。
いいのかな?と驚いて目を見開くと、思わずグラスを握る彼の大きくて綺麗な手に見入ってしまう……。
「……ピアノが、歌いかけてくれたみたいっていうか、寂しくて悲しいのに優しいから。心地好かったです」
「…………それはどうも」
胸の中に残る余韻に酔いしれながら、隼人さんに微笑んだ。
「隼人、なに照れてんの?」
「……照れてねーよ」
「花音ちゃん、隼人に惚れちゃった?」
「えっ!?ちっ、違いますよ!演奏の感想なだけです!私別にっ、思ったこと言っただけだし!」
「あはは、ツンツンしないで」
「なっ、……もう!」
フンッと顔をそらすと私の頬を人差し指でぷにぷに押しながら、恵理が苦笑いする。
「花音、そーれがツンなのよ」
「恵理やめてっ」
「隼人サン優しそうだし、彼女いないなら付き合ってもらえば~?」
「はぁ!?」
本人目の前にしてそういうこと言う!?
爽やかにスルーされてるけどね。
恵理の言葉に昂さんが笑いだした。
「あはは。隼人が優しいって?それはボーッとしてる時の顔だけ」
「え?隼人サンって実はドSとか?」
「そうそう、意外性120%」
「奇遇、花音もなんだよねー?」
「うるさいなぁ。どーせ名前に似合わず可愛いげないですよっ」
「はいでた。ツンツン」
「っ昂さん!辛口のガツンとくるやつお願いします」
「大丈夫?」
「平気です!」
私は唇を尖らせ、勢い任せにカクテルをオーダーした。
「どうぞ花音ちゃん。アースクエーク」
アース何?地球……?
手に取り飲もうとしたところで、今まで私達のやり取りを冷ややかに見ていた隼人さんが、初めて口を挟んできた。
「……昂、ちょっと強くね?」
「えぇ?そぉ?」
「惚けてんな」
「隼人が心配するなんて珍しいなぁ?」
「別に。目の前で吐かれたら嫌なだけ」
「はっ、吐きませんよ……」
ドSっていうか嫌味な人?
ぱっと見もピアノの音も優しそうなのに
残念……。
私は感傷に浸ってついビールのように、ゴクッと飲んでしまった。
「うぐっ、ゲホッ」
「……だから言ったのに」
「ガツンてきた」
「花音、大丈夫?」
「……うん」
なんか強烈だけど、今の私にはピッタリ。
「そういう恵理こそ、なんかフラフラしてない?」
「してないよー」
「恵理?もう止めといたら?」
座っているのに体が揺れている。
そんな強いお酒を飲んだ気はしないのだけれど、実は私もいつもの酔い方と少し違う。
慣れない大人の空間で雰囲気にも酔っているのかも。
「そろそろ出ようか?」
「いや!私はまだ昂くんといたいっ!」
「えぇ?我が儘言ってないで……」
「花音も素直になれないから、可愛いげないって振られるのよー?」
「もう、その話は」
「本当は甘えたいくせに強がりだから、気づいてもらえないんだよ?」
「……っ」
「私は昂くんラブー!!」
「わぉ、マジ?恵理ちゃんありがとー」
さすが親友、その通り。
素直に人に頼ったり甘えることができない私。
私も恵理みたいに可愛く甘えられたらな。
……って落ち込んでる場合じゃないよ!
この酔っぱらいなんとかしなきゃ。
「とりあえず今日は……」
「花音ちゃん、俺が送るから心配しないで」
「でもっ」
「きゃ~!バイバイ花音」
「はぁ?」
昂さんだって仕事中なんじゃ……?
首を傾げているうちに、恵理を連れてバーを出て行ってしまった。
残された私達は会話もなく時間だけが過ぎていく。
早く飲んで帰ろうと思っても、いい加減酔いは回っていて溜め息ばかりが溢れた。
恵理が余計なこと言うから、なんか虚しいな……。
鼻をすすりながらカクテルを飲んでいると、隣にいた隼人さんがバーテンダーに声をかけた。
「チェイサーくれる?」
隼人さんは出されたグラスを私の前に滑らせて耳元で囁く。
「それ無理して飲んでないで、テイクアウトされる前にあんたも帰れよ」
「へ?」
ニヤリと口角を上げて席を立つ。
ピアノに向かう彼の背中を見つめて、ドキドキしながらコクリと飲んだ。
「…………水」
何曲か演奏して椅子を立った隼人さんを、昂さんが呼び止める。
「隼人、あちらのマダムから」
「はぁ?俺は仕事なんだから飲まないっていつも言ってるだろ」
「たまには相手してやれよー」
「断る」
……あぁ、なるほど。
このバーに女性客が多いのは、この二人のお陰だ。
昂さんは眉を上げると、違うお酒を作り直して私の隣の席に置いた。
「んじゃー、花音ちゃんから」
「えっ、私!?」
「隼人にピアノの感想言ってあげてよ」
「でも……」
仕事中なんだよね。
感動したのは確かだから、せめて感想だけでも伝えられれば。
「うーん。ちょっと待ってくださいね」
「そんな無理に考えなくても」
「違いますよ、言葉にするのが難しいだけ」
気持ちを言葉にしようと隼人さんを見つめ上げながら唸っていると、不意に視線を外される。
そのまま仕方なさそうに隣に座り、グラスを煽った。
いいのかな?と驚いて目を見開くと、思わずグラスを握る彼の大きくて綺麗な手に見入ってしまう……。
「……ピアノが、歌いかけてくれたみたいっていうか、寂しくて悲しいのに優しいから。心地好かったです」
「…………それはどうも」
胸の中に残る余韻に酔いしれながら、隼人さんに微笑んだ。
「隼人、なに照れてんの?」
「……照れてねーよ」
「花音ちゃん、隼人に惚れちゃった?」
「えっ!?ちっ、違いますよ!演奏の感想なだけです!私別にっ、思ったこと言っただけだし!」
「あはは、ツンツンしないで」
「なっ、……もう!」
フンッと顔をそらすと私の頬を人差し指でぷにぷに押しながら、恵理が苦笑いする。
「花音、そーれがツンなのよ」
「恵理やめてっ」
「隼人サン優しそうだし、彼女いないなら付き合ってもらえば~?」
「はぁ!?」
本人目の前にしてそういうこと言う!?
爽やかにスルーされてるけどね。
恵理の言葉に昂さんが笑いだした。
「あはは。隼人が優しいって?それはボーッとしてる時の顔だけ」
「え?隼人サンって実はドSとか?」
「そうそう、意外性120%」
「奇遇、花音もなんだよねー?」
「うるさいなぁ。どーせ名前に似合わず可愛いげないですよっ」
「はいでた。ツンツン」
「っ昂さん!辛口のガツンとくるやつお願いします」
「大丈夫?」
「平気です!」
私は唇を尖らせ、勢い任せにカクテルをオーダーした。
「どうぞ花音ちゃん。アースクエーク」
アース何?地球……?
手に取り飲もうとしたところで、今まで私達のやり取りを冷ややかに見ていた隼人さんが、初めて口を挟んできた。
「……昂、ちょっと強くね?」
「えぇ?そぉ?」
「惚けてんな」
「隼人が心配するなんて珍しいなぁ?」
「別に。目の前で吐かれたら嫌なだけ」
「はっ、吐きませんよ……」
ドSっていうか嫌味な人?
ぱっと見もピアノの音も優しそうなのに
残念……。
私は感傷に浸ってついビールのように、ゴクッと飲んでしまった。
「うぐっ、ゲホッ」
「……だから言ったのに」
「ガツンてきた」
「花音、大丈夫?」
「……うん」
なんか強烈だけど、今の私にはピッタリ。
「そういう恵理こそ、なんかフラフラしてない?」
「してないよー」
「恵理?もう止めといたら?」
座っているのに体が揺れている。
そんな強いお酒を飲んだ気はしないのだけれど、実は私もいつもの酔い方と少し違う。
慣れない大人の空間で雰囲気にも酔っているのかも。
「そろそろ出ようか?」
「いや!私はまだ昂くんといたいっ!」
「えぇ?我が儘言ってないで……」
「花音も素直になれないから、可愛いげないって振られるのよー?」
「もう、その話は」
「本当は甘えたいくせに強がりだから、気づいてもらえないんだよ?」
「……っ」
「私は昂くんラブー!!」
「わぉ、マジ?恵理ちゃんありがとー」
さすが親友、その通り。
素直に人に頼ったり甘えることができない私。
私も恵理みたいに可愛く甘えられたらな。
……って落ち込んでる場合じゃないよ!
この酔っぱらいなんとかしなきゃ。
「とりあえず今日は……」
「花音ちゃん、俺が送るから心配しないで」
「でもっ」
「きゃ~!バイバイ花音」
「はぁ?」
昂さんだって仕事中なんじゃ……?
首を傾げているうちに、恵理を連れてバーを出て行ってしまった。
残された私達は会話もなく時間だけが過ぎていく。
早く飲んで帰ろうと思っても、いい加減酔いは回っていて溜め息ばかりが溢れた。
恵理が余計なこと言うから、なんか虚しいな……。
鼻をすすりながらカクテルを飲んでいると、隣にいた隼人さんがバーテンダーに声をかけた。
「チェイサーくれる?」
隼人さんは出されたグラスを私の前に滑らせて耳元で囁く。
「それ無理して飲んでないで、テイクアウトされる前にあんたも帰れよ」
「へ?」
ニヤリと口角を上げて席を立つ。
ピアノに向かう彼の背中を見つめて、ドキドキしながらコクリと飲んだ。
「…………水」