ドルチェ~悪戯な音色に魅せられて~
「あ。恵理ちゃん花音ちゃん」
扉を開けると溢れ出す、優しい音色に迎えられた。
今までジャズを聴く機会もなかったけれど、こんな落ち着くジャズって初めて。
一週間前の余韻がまだ胸の中で疼めいていた。
「きゃーっ、昂くん!」
「……こんばんは」
昂さんは恵理みたいな女の子にキャーキャー囲まれているのかと思ったけれど。
世界が違うのね。
カウンターに座る数人の貴婦人に睨みつけられた。
確かにこれはこれで威圧感。
まぁ、雰囲気は壊さないのがマナーだよね。
……私はソファー席がいいな、と思ったのに。
「花音、どこ行くの?」
「私は奥でゆっくり……」
「だーめっ」
「え?」
「昂くん、花音が素直になれるようなカクテル作ってあげてよ」
「ちょっと!」
「あはは。花音ちゃんのツンデレが好きな奴もきっといるよ~」
「っ、もう!」
「私は昂くんのオススメがいいなぁ」
「はーい」
無理矢理、恵理の隣に座らされカウンターでカクテルを頼む。
二人の世界に目を背けると、ピアノを弾く隼人さんが目に入った。
曲のせいだろうか、前に見た時よりもずっと耽美で感情的な顔をしている。
口数の少なかった分、表情を見ることが珍しくてついうっとりと見とれてしまった。
「……っ」
あっ、ヤバッ。
目が合っちゃったかも!?
慌ててカクテルに視線を落とし口づける。
目つきが、やっぱり意地悪かった!
一瞬合った視線とセクシーな目つきに、頬がカァッと熱くなった。
「昂くん、今夜は空いてるの?」
「あーうん。いいよ~」
「ぶっ」
「花音、汚い」
「だって」
「早い者勝ちでしょ」
ここで誘うの!?そしていいの!?
あちらのマダム達が睨んでますよ。
恵理ってば、だから威圧されるんだよ……。
「花音ちゃんは純粋なんだよね~」
「昂くん、私もだけどぉ?」
「あはは。うん」
この二人のやり取りにはついていけない。
深く溜め息を吐くと、恵理の後ろに影ができた。
「ちょっとあなた……」
「なんですかぁ?」
「マナーも守れないのに、こういう所へ来ないでほしいわ」
「マナー?私は約束しただけですよ?……あなたたちに取られる前に」
「ちょっと恵理っ……」
女のいがみ合いが怖い……。
昂さんは気にも止めていないようで、冷たい視線を投げていた。
こういう人、なんか嫌だな。
「あなたねぇっ!」
えっ、危ないっ!?
恵理に振り上げられた手を咄嗟に私の頬で受け止めた。
その拍子にフラッと足がもつれて、倒れ込んでしまう。
「きゃっ、花音!?大丈夫!?」
「……っ平気」
「本当……?立てる?」
「うん、ーーーっ!?」
っ私のドジ……、足捻ったかも。
ズキズキ痛みが響いて足に力が入らない。
どうしよう、根性振り絞るしかないか。
「花音?」
「っ、あ、大丈夫……。なんでもな、いっ?」
恵理を心配させまいと歯を食い縛ると、ふわりと体が宙に浮いた。
「医務室行く」
「ごめん隼人、よろしく」
「えっ、何!?おろ……」
下ろしてっーーー!!
この私がお姫様抱っこなんて……、こういうことをされるタイプじゃないんだからっ!
この前飲んだ、アースなんとか並みにガツンときて、くらくらと目が回る。
恥ずかしくて暴れる私に、隼人さんは呟いた。
「大人しくしてないと、このまま放り投げるぞ」
「ひっ!」
それはイヤ。
反射的に固まる私に、彼は嫌味らしく鼻で笑った。
扉を開けると溢れ出す、優しい音色に迎えられた。
今までジャズを聴く機会もなかったけれど、こんな落ち着くジャズって初めて。
一週間前の余韻がまだ胸の中で疼めいていた。
「きゃーっ、昂くん!」
「……こんばんは」
昂さんは恵理みたいな女の子にキャーキャー囲まれているのかと思ったけれど。
世界が違うのね。
カウンターに座る数人の貴婦人に睨みつけられた。
確かにこれはこれで威圧感。
まぁ、雰囲気は壊さないのがマナーだよね。
……私はソファー席がいいな、と思ったのに。
「花音、どこ行くの?」
「私は奥でゆっくり……」
「だーめっ」
「え?」
「昂くん、花音が素直になれるようなカクテル作ってあげてよ」
「ちょっと!」
「あはは。花音ちゃんのツンデレが好きな奴もきっといるよ~」
「っ、もう!」
「私は昂くんのオススメがいいなぁ」
「はーい」
無理矢理、恵理の隣に座らされカウンターでカクテルを頼む。
二人の世界に目を背けると、ピアノを弾く隼人さんが目に入った。
曲のせいだろうか、前に見た時よりもずっと耽美で感情的な顔をしている。
口数の少なかった分、表情を見ることが珍しくてついうっとりと見とれてしまった。
「……っ」
あっ、ヤバッ。
目が合っちゃったかも!?
慌ててカクテルに視線を落とし口づける。
目つきが、やっぱり意地悪かった!
一瞬合った視線とセクシーな目つきに、頬がカァッと熱くなった。
「昂くん、今夜は空いてるの?」
「あーうん。いいよ~」
「ぶっ」
「花音、汚い」
「だって」
「早い者勝ちでしょ」
ここで誘うの!?そしていいの!?
あちらのマダム達が睨んでますよ。
恵理ってば、だから威圧されるんだよ……。
「花音ちゃんは純粋なんだよね~」
「昂くん、私もだけどぉ?」
「あはは。うん」
この二人のやり取りにはついていけない。
深く溜め息を吐くと、恵理の後ろに影ができた。
「ちょっとあなた……」
「なんですかぁ?」
「マナーも守れないのに、こういう所へ来ないでほしいわ」
「マナー?私は約束しただけですよ?……あなたたちに取られる前に」
「ちょっと恵理っ……」
女のいがみ合いが怖い……。
昂さんは気にも止めていないようで、冷たい視線を投げていた。
こういう人、なんか嫌だな。
「あなたねぇっ!」
えっ、危ないっ!?
恵理に振り上げられた手を咄嗟に私の頬で受け止めた。
その拍子にフラッと足がもつれて、倒れ込んでしまう。
「きゃっ、花音!?大丈夫!?」
「……っ平気」
「本当……?立てる?」
「うん、ーーーっ!?」
っ私のドジ……、足捻ったかも。
ズキズキ痛みが響いて足に力が入らない。
どうしよう、根性振り絞るしかないか。
「花音?」
「っ、あ、大丈夫……。なんでもな、いっ?」
恵理を心配させまいと歯を食い縛ると、ふわりと体が宙に浮いた。
「医務室行く」
「ごめん隼人、よろしく」
「えっ、何!?おろ……」
下ろしてっーーー!!
この私がお姫様抱っこなんて……、こういうことをされるタイプじゃないんだからっ!
この前飲んだ、アースなんとか並みにガツンときて、くらくらと目が回る。
恥ずかしくて暴れる私に、隼人さんは呟いた。
「大人しくしてないと、このまま放り投げるぞ」
「ひっ!」
それはイヤ。
反射的に固まる私に、彼は嫌味らしく鼻で笑った。