ドルチェ~悪戯な音色に魅せられて~
追いやられた壁に寄りかかり、茫然と立ち竦む。
そんな私を隼人さんが覗き込んだ。
「足りない?」
「…………え?」
「物欲しそうな顔してる」
「へっ!?」
「逃げたいのなら、今のうち」
「あっ!」
ドアを指差されてはっと気づく。
私は逃げようとすれば、いつでも外に出られる位置にいたんだ。
「なーんて言えば、ツンデレラ姫は逃げるだろうから。俺はさせないけどね?」
「えっ!?わ、きゃっ!?」
私を軽々と肩に担いで部屋の奥へ連れ込むと、ベッドに放り投げた。
彼は眼鏡を外してニヤリと笑う。
「お前本当は虐められるの好きだろ」
「はぁ!?なんなんですかっ!?」
「俺が弄んでやるよ」
「結構です!」
なななっ、なんかヤバイ。
まるで獣のように鋭く光る、妖しい目つき。
「しっ、仕事!行かないんですか!?」
「別に俺じゃなくてもいいんだよ」
「……え?」
なんか今、隼人さんの顔が……。
隼人さんの瞳が、凄く寂しそうに揺らいだ気がして。
ーーー無性に惹かれる私がいた。
ギシッとベッドが沈み彼が近づいて来る。
ドクドクと早くなる鼓動を握り締めて、睨みつけた。
「こういうの、好きでもないのにやめてください!」
「……好きならいいの?」
「えっ、と。それは、……」
どうなんだろう。
好き、なんて言葉、口ではいくらでも言える。
そうして飽きたらサヨウナラ。
そんなのもう、辛いだけなの。
「私はっ、割り切った関係とか、遊ばれて捨てられるような恋愛したくないんです」
「大丈夫。俺、お前のこと気に入ってる」
「えぇっ!?」
「俺は上っ面より本質を見抜ける女のほうが好き」
隼人さんはクスクス笑いながら、私の頬をぷにっと押す。
「……そんなの、信じられない」
「なんで?」
「大体私、可愛いげないし甘え下手だし、意地張って素直じゃないし」
「あぁ、お前そう言われて捨てられてきたのか」
「別に気にしてませんからっ!」
そんなわざわざ抉らなくてもいいじゃない……。
目の前が涙で歪んできて、見られたくなくて俯いた。
「俺は言わないよ」
ーーーえ?
「トキメイタ?」
「っ、んなわけないでしょ!」
「ほんとかな~?」
「本当です!」
隼人さんは面白そうに口角を上げたまま、私をベッドに押し倒す。
間近で視線を合わせるのが恥ずかしくて、真っ赤な頬を見られるのが恥ずかしくて、顔を背けた。
「……嘘だな」
「えっ」
「試してみなよ?」
「やめ、ーーーっ」
彼の唇が肩に触れ、舌が鎖骨を這っていく。
それだけで体の芯がゾクリとする。
こんなこと初めてで、涙が溢れた。
怖いんだ、逃げなきゃ、もっと抵抗しなきゃ。
そう思うのに体が言うことを聞かない。
「お前、嫌がってないよ」
「なん、で……」
「ココロは意地張ってても、カラダは正直ってこと」
「そんなことっ」
「素直になっちゃえば?」
「ーーーんっ」
彼の唇は冷たくて気持ち良くて、あのピアノの音色のように優しい。
怖いのは、隼人さんじゃない……。
自分の弱いところを見られるのが、怖い。
誰かに頼って失うのが、怖い。
不安げに見つめていると、隼人さんは溢れた涙に唇を寄せ、耳元で静かに囁いた。
「嫌になったら俺のこと捨てていいよ」
「……えっ」
「フッ、まぁ……、ならないと思うけど」
サイドテーブルに置かれたカクテルを取り、口に含んだ彼は私に流し込む。
「んくっ、!?ーーーはっ」
「あいつが、お詫びだって」
「……っ」
「ビトウィーン・ザ・シーツ」
もう、何も考えられない。
「どういう意味か知ってる?」
甘く揺れる世界にとろけていく。
ーーーベッドに入って。
そんな私を隼人さんが覗き込んだ。
「足りない?」
「…………え?」
「物欲しそうな顔してる」
「へっ!?」
「逃げたいのなら、今のうち」
「あっ!」
ドアを指差されてはっと気づく。
私は逃げようとすれば、いつでも外に出られる位置にいたんだ。
「なーんて言えば、ツンデレラ姫は逃げるだろうから。俺はさせないけどね?」
「えっ!?わ、きゃっ!?」
私を軽々と肩に担いで部屋の奥へ連れ込むと、ベッドに放り投げた。
彼は眼鏡を外してニヤリと笑う。
「お前本当は虐められるの好きだろ」
「はぁ!?なんなんですかっ!?」
「俺が弄んでやるよ」
「結構です!」
なななっ、なんかヤバイ。
まるで獣のように鋭く光る、妖しい目つき。
「しっ、仕事!行かないんですか!?」
「別に俺じゃなくてもいいんだよ」
「……え?」
なんか今、隼人さんの顔が……。
隼人さんの瞳が、凄く寂しそうに揺らいだ気がして。
ーーー無性に惹かれる私がいた。
ギシッとベッドが沈み彼が近づいて来る。
ドクドクと早くなる鼓動を握り締めて、睨みつけた。
「こういうの、好きでもないのにやめてください!」
「……好きならいいの?」
「えっ、と。それは、……」
どうなんだろう。
好き、なんて言葉、口ではいくらでも言える。
そうして飽きたらサヨウナラ。
そんなのもう、辛いだけなの。
「私はっ、割り切った関係とか、遊ばれて捨てられるような恋愛したくないんです」
「大丈夫。俺、お前のこと気に入ってる」
「えぇっ!?」
「俺は上っ面より本質を見抜ける女のほうが好き」
隼人さんはクスクス笑いながら、私の頬をぷにっと押す。
「……そんなの、信じられない」
「なんで?」
「大体私、可愛いげないし甘え下手だし、意地張って素直じゃないし」
「あぁ、お前そう言われて捨てられてきたのか」
「別に気にしてませんからっ!」
そんなわざわざ抉らなくてもいいじゃない……。
目の前が涙で歪んできて、見られたくなくて俯いた。
「俺は言わないよ」
ーーーえ?
「トキメイタ?」
「っ、んなわけないでしょ!」
「ほんとかな~?」
「本当です!」
隼人さんは面白そうに口角を上げたまま、私をベッドに押し倒す。
間近で視線を合わせるのが恥ずかしくて、真っ赤な頬を見られるのが恥ずかしくて、顔を背けた。
「……嘘だな」
「えっ」
「試してみなよ?」
「やめ、ーーーっ」
彼の唇が肩に触れ、舌が鎖骨を這っていく。
それだけで体の芯がゾクリとする。
こんなこと初めてで、涙が溢れた。
怖いんだ、逃げなきゃ、もっと抵抗しなきゃ。
そう思うのに体が言うことを聞かない。
「お前、嫌がってないよ」
「なん、で……」
「ココロは意地張ってても、カラダは正直ってこと」
「そんなことっ」
「素直になっちゃえば?」
「ーーーんっ」
彼の唇は冷たくて気持ち良くて、あのピアノの音色のように優しい。
怖いのは、隼人さんじゃない……。
自分の弱いところを見られるのが、怖い。
誰かに頼って失うのが、怖い。
不安げに見つめていると、隼人さんは溢れた涙に唇を寄せ、耳元で静かに囁いた。
「嫌になったら俺のこと捨てていいよ」
「……えっ」
「フッ、まぁ……、ならないと思うけど」
サイドテーブルに置かれたカクテルを取り、口に含んだ彼は私に流し込む。
「んくっ、!?ーーーはっ」
「あいつが、お詫びだって」
「……っ」
「ビトウィーン・ザ・シーツ」
もう、何も考えられない。
「どういう意味か知ってる?」
甘く揺れる世界にとろけていく。
ーーーベッドに入って。