ランプをさすって、ワタシを呼んで
翌朝、子どもと彼を連れて図書館に向かった。育児本を借りるためだ。古いものから新しいものまであったが、おそらく、この図書館にある育児本はどれも借りられてないだろう。今は機械を使って貸し出しができるが、昔は図書カードに名前を書いて借りていたと聞いたことがある。現に、裏表紙をめくると図書カードが貼ってある。10年も前にこの図書館の本の仲間入りしたと日付けがあるがこの10年の間に借りた人は三人だ。今どきというのだろうか。ママタレが出版でもしない限り、わざわざ手を伸ばすことはないということだ。
参考になりそうもないけど二冊借りた。一冊は名前辞典だ。出生届を出さないといけないのだが、犬にも名前をつけたことがないのに、子どもに名前をつけるなんて私たちには難題だった。彼はレインでどうかというけれど、あまりにもな上に子どもが生まれたときは晴れていた。
「ママ〜。なんか買っていかないと家になんもないよー」
彼はママ呼びを気に入り、昨日からママ、ママと子どもよりも呼ぶ。そもそも、子どもはまだ歯も生えてないのだから、ママと呼ぶことはないのだけども。はたして子どもがママと呼べるころにはママになっているかも想像できない。彼の胸に抱かれた子どもは目だけをキョロキョロさせて、初めての道を眺めている。子どもに対しての愛しさというものがわからなかった。宇宙人にしか見えない。こちらを見て笑っている。歯も生えていない首も座らない宇宙人が笑っている。ただ目元が彼に似ていた。そして、可愛いけど、自分の子どもというよりは彼の子どもに感じた。
スーパーでは、平日の昼間に私たち若造はすごく浮いて感じたけど、だからと言ってへんな目で見られることもなかった。私が母親に見えるのか、それとも親戚の赤ん坊を連れて見えるのか聞きたかったけれどやめた。なんに見えたところで、仮に母親に見えても反応できる自信がなかった。彼の胸であくびした子どもは眠そうに目を半分閉じた。彼がお手洗いに行くというので、子どもを渡されると安心したように眠る。そんなに母親の胸は安心するのかい。心の中で呟くように問いかける。母乳くさい子どもが私の胸で眠っている。ブラックホールにでもなった気分だ。宇宙人がどこを住処にしているかは知らないけれど、この宇宙人の住処はどこなのだろうか。
「あ」
宇宙人の鎖骨に私と同じようなホクロが存在してる。やっぱり、この宇宙人。もとい、子どもは私の子どもなんだ。私の分身なんだ。10月10日。この宇宙人は私のナカにいた。私から栄養もいつの間にもらって、私のナカで人間になった。なのに、私は10月10日、共にしたはずのこの宇宙人を我が子に思えない。他の母親たちはなにを基準に自分が母親だと自覚をするのだろうか。私が異端なのだろうか。
貴方には、私がなんにみえるの?
歯も生えてない子どもに、答えもしない赤ん坊にひたすら念を送るように見ていた。
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