煩い顔。煩いオマエ。煩い心臓。
『っっ……ついに……やってしまったぁ……!』

「はぁ……マジかよ……。」

「んで、ついにセク口スしちまったわけだが、ご感想は?」

「っ……!……よ、よかった……です……。」

「……そか、よかった……か。俺もうまくいってよかったわ、色々と。」

「……なぁ、お前さ。」

「ん?」

「は、初めて……なんだよな?ほんとに、彼女もいないし、ましてや男も……ないよな?」

「そうだけど……痛かったり……したか?」

「いやっ!全然!むしろ……よすぎて……ちょっと疑ったわ……。」

「……実を言うと……大葉の姉の私物を見してもらったんだ……今回のこと全部が付け焼き刃だったから、マジで大丈夫なのか……ちょっと心配だったんだ。でも、大丈夫そうならその……よかった。」

「っ……おう……。」

見事なアメとムチを使いこなしていた黒永だったが、今思い返せば少し言動に違和感があったことは確かだ。何をするにも少し不安げで、Sになりきれてないようなところも……しかし、後半はほとんど彼の性格がそのまま滲み出ていただろう。

『つか、うますぎだろっ……!天性の才能ってか……?』

「んじゃ……風呂行こう。流石にこれで寝るのはまずい。」

「おう……悪いけど、もう少し待ってくれねぇか。疲れて、動ける気がしねぇんだわ……。」

「……。」

黒永は起き上がると、床に落ちた浴衣をきっちり着る。俺の体に浴衣をかけたと思うと、俺の体を軽々と持ち上げた。お姫様抱っこをサラッとしてしまう黒永には、毎度驚かされる。

「うわっ……!」

「寝る時間あんまり削りたくねぇから、このまま風呂まで運ぶぞ。それでいいな。」

「まっ、待て!服!服を着せろっ!!」

「見えてないから大丈夫だろ。この時間にはもうみんな寝てるだろうし。」

「そういう問題じゃ……!」

口だけは達者に動くが、体は鉛のように重く、抵抗する余力も残っていなかった。そのまま風呂場へと運ばれ、人形のように体を流されたのだった。

「────はぁ……眠ぃ……。」

「俺だって眠いさ。風呂出るまでは起きててくれ。体拭いたら、寝ちまってもいいからよ。」

「んー……。」

「コラ、寝んな。」

「わーったよ……寝ねぇから……。」

シャワーの生ぬるい温度が心地よくて、ついうとうとしてしまう。すると、黒永は椅子から俺を下ろすと、後ろから抱きかかえるように、自分の脚の間へ俺を座らせた。そして、太ももを開き、下肢が丸見えの状態にした。

「っ!?何やって……!!」

「掃除だ。」

「はぁっ!?何わけ分かんねぇことっ……!」

「おい騒ぐな……傷つけたらどうすんだよ。」

「ままっ……待て待て!……せめて、事情を説明しろっ!」

「……簡潔に説明すると、中で出しちまったものを掻き出す。もっと簡単に言えば、後処理やってやろうってことだ。」

「あ、後処理って……。」

前者の説明で察しはついたが、なんの予告もなくしようとする黒永に戸惑った。

「……大葉姉の本によると、これをしないと腹を壊すそうだ。ゴムもしてなかったし、仕方が無いんだと。」

「っ……分かったけど……なんか一言あんだろうが……!」

「すまん……俺が睡魔に負ける前にやらねぇと、お前明日具合悪くなっちまうだろ?俺のせいで、コウに休まれるのは嫌だ。」

「っ……つってもよ……明日金曜だし、別にいいじゃねぇかよ……まぁ、腹下すのはごめんだけど……。」

しばらく沈黙が続くと、黒永は手を動かした。

「っおい……や、やんのかよ……。」

「いつまでもこうしてたら、進まないだろ……痛くしねぇように努力するから。」

「ちょっ、待っ……!」

「……どうした。」

改めてこんなことをしようとすると、少し恥ずかしかった。黒永の手を掴み、入れようとする指を止めた。それに、心配なのはそれだけではなかった。

「っ……待て……まだ、心の準備がっ……。」

「……さっきまで、指より太いもん突っ込まれてたクセに……。」

「っるっせぇな!分かってらぁそんなのっ!!けどっ……改めて、やるのは……恥ずいんだよっ……!」

「男なら覚悟決めろって。もう散々色んなことしただろ。今更なに恥ずかしがってんだ。」

「あっ、あんときは……なんか気持ちがワーってなったからっ……したかった、からっ……っ……悪いかよ……!」

鏡越しで黒永の顔が一瞬強ばったかと思うと、俺の首に顔を埋める。大きなため息が背中にかかり、ぞわりと痺れる。

「っ……お前は、ほんっとに……煽りの天才かよ……マジぶち犯すぞ。」

「はっ!?何言い出すんだよてめぇは!」

「あっ……口が滑った。」

「口が滑ったぁ!?とんでもねぇ爆単発言聞いちまったんだけど!」

「っ……うるさいっ、黙って掘られてろ。おらやんぞ!」

「うぁっ……まっ、て……!」

容赦無く穴へと指を入れる。中に残ったものが滑りをよくし、動かすと粘り気のある音をたてるのだった。指が奥に当たる度に、荒い吐息が漏れる。

「う、ンっ……くっ……は、ぁ……っ……!」

「っはは……声、だだ漏れじゃねぇか……後ろは気持ちいいか?」

「んぅっ……うるさっ、い……あぅっ……く……っ!」

『っ……嘘っ……痛くねぇ……それにっ……嫌じゃ、ねぇ……!俺は本当に、どうかしちまったのかよっ……!』

「さっきまでの威勢はどうした……吠えてみろよ……なぁ……。」

「うあぁっ……!っ……やめっ……も、嫌…だっ……指っ……抜け……!」

ぐちゅぐちゅと音を響かせ、動かす手を掴んだ。風呂場のせいか、響く音がより鮮明に聞こえて、また気持ちが高ぶってしまう。自分の考えていることとは裏腹に、正直に反応してしまう体に腹が立つ。そのせいで、また俺の気分は熱に、欲に飲まれていくのだった。

「あ、くっ……やっ……やめっ……奥……いぁ……あっ……!」

『ダメだっ……また、おかしくっ……!』

「あっ、雨っ……はぁっ……もうっ……嫌だ……!」

「っ……待て、もう少しだからっ……黙ってろ。」

そう言うと黒永は、奥にあるゴリッとしたところに触れる。腰が浮き、生理的な涙が目を霞ませる。

「く、んぅっ……!そこっ……だ、めっ……また、勃っちゃ……あぁっ……!」

ビクビクと身を震わせ、再び襲いかかる快楽に抵抗する。けれど、その抵抗は無駄に終わる。

「……なに、反応してんだ……そんなによかったかよ……。」

「えっ……っ!?」

「健気すぎんだよお前は……。」

「ち、違っ……これは、違うっ……!」

「違わない……はぁ……もう下は終わったから、あとはそっちもした方がよさそうだな。」

「っ……それは、自分でっ……!」

黒永は俺の話に耳を傾けず、そそり立つモノに触れる。上下に動かすと、先走り液がぬるぬるとそれを覆っていく。

「っ……はっ……あっ……あぁっ……や、やめっ……雨っ……!」

「っ……。」

「んあぁっ……っ……やめっ……雨っ……あ、め……っ……ふぁっ……あ……っ!」

「……いいクセに……んっ……。」

「ひぁっ……!耳……やらっ……ん、く……ふっ……舐めっ……んあっ……!」

「ククっ……やらし……こんなに声漏らして、感じて……恥ずかしいヤツ。」

「んっ……このっ……ドSっ……っあ……はぁっ……!」

黒永はまた欲情した獣のように、俺の体を愛撫する。胸の飾りに触れ、首筋に舌を這わせる。触れる手がとても熱い。息も、身体も、熱でどうにかなってしまいそうだ。

「あぁっ……も、ダメっ……雨っ……イッちゃうっ……あぁっ……あっ……!」

「ん……イけよっ……全部見ててやる……コウ。」

「ひぅっ……や、っ……み、な……あぁっ……いっ……あぁっ────!」

むせ返りそうな熱と共に、欲望を吐き出した。白い熱が腹に注がれる。

「あ……あ……ンっ………あ…め……。」

「……ふっ……おやすみ、コウ。」

チカチカと星の舞う中、俺はまたもや気絶してしまった。最後に聞いた黒永の言葉は、次に起きた時にはもう忘れている。

────黒永 雨視点

「っ……はぁ……はぁ……うっ、く……あっ────!」

コウとの1件が終わったあと、俺自身の体にも熱を宿していた。コウの体を洗い流し、自己処理をし、風呂場を後にする。

『────可愛い……。』

コウの部屋のツインベッドに寝そべる。俺の腕の中で、すやすやと寝息をたてて眠るコウを眺める。サラサラな金色の美しい髪、ほんのり赤いプニっとした頬、筋の浮き出た滑らかな首筋、白く透き通る雪のような肌、そこにある、俺が跡をつけた『所有物』の赤い印。

『……綺麗だな……いつ見ても。』

頬を指でつつくと、程よい弾力の柔らかい肉が押し返す。

「……ん……む…………。」

「……可愛い……好きだ、コウ……大好き。」

俺の心はコウで溢れている。今までで1番幸せもしれない。体はクタクタだが、コウの寝顔をしっかりと目に焼き付けると、散らかったベッドを片付けようと立ち上がる。

「っ……うおっと……。」

『やっぱ、少しやりすぎたかも……気持ち悪い……。』

ベッドから立ち上がると、立ちくらみが起き、またベッドに座り込んでしまった。最近はずっと寝不足で、体調の優れない日が多く激しい運動の後には、気分が悪くなることもある。元々体は強い方ではなく、昔から結構病弱なところもある。火傷跡のこともあるが、内蔵的な意味でも、常人より弱いと思う。俺は頭に手をつき、深いため息をする。

『仕方ない……このまま寝よう。明日はせっかく、盛重さんが張りきってくれてるみたいだし。』

部屋に掛けられた時計を見ると、午前1時を過ぎている。クラクラとしている頭を、ふかふかのベッドに落とすように埋めた。

『……今日は、ちゃんと寝れるだろうか……。』

いつも1人で寝ているせいか、ベッドが異様に広いせいか、少し落ち着かない。しかし、隣で寝ているコウの側に寄り、コウの温もりを感じながら寝っ転がる。

『……温かい……子供体温だな。』

もう一度、コウの頬に触れた。さらりとした肌を撫でる。この安心感は、昔親と寝ていたころ以来だ。

『母さん……俺、今……すっげー幸せ。』

母の顔を思い出した瞬間、頭によぎる残酷な映像が、頭痛と共に襲いかかる。

「っ……!!」

痛みに頭を抑え、目をきつく閉じた。忘れていた痛みが、再び戻ってくる。心なしか、顔と背中が熱い気がした。

「っはぁ……はぁっ……っ……くそ……っ。」

『もう違うっ……ここは、あの場所とは違う……もう、あいつはいないっ……!』

「痛っ……っ……やめろっ……もう、やめてくれっ……!」

小さな声で呟く弱音に、心は更に蝕まれていく。頭の中から金槌で殴られているように、ガンガンと激しい痛みが襲った。

「っはぁ……はぁ……痛っ……母さん……っ……!」

『助けてっ……母さん……痛いっ……!』

心の中必死に助けを乞うが、届くはずもないその声に絶望する。呼吸は早まり、冷や汗が出て、目からは涙が溢れてきた。どうしようもないこの状態に、1人うずくまっていた。

「んー……む、ぅ…………くー……くー……。」

「っ!?」

すると、寝返りをうつコウの手が俺の肩に当たる。ハッと我に返ると、目を開きコウの横顔を見つめる。バクバクと鳴り響く心音が、少しづつ静まっていくのを感じた。

『コウ……に救われたなこりゃ……。』

「っ……ありがとう……コウ。」

俺はコウの手を取り、両手で握りしめた。男らしいけれど、指先の丸い可愛らしい手に、すがりつくように握りしめる。目をつぶり、コウへ寄り添うように近くへと寄る。安心したのか、その後すぐに深い眠りへとついてしまった。目をつぶっているときに、1粒の涙がこぼれるのを感じた後、俺の意識は途絶えた。
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