◇ヌードで魅せて◇
かける言葉もわからず、再び沈黙が訪れた。
ただ立ち尽くすあたしに、先輩は一枚の写真を差し出した。
「これ……」
それは、あの日見た夕日の写真。
あの日、涙を流しながら見た先輩の写真だった。
あの時のあたしは彼氏に捨てられて傷ついたばかりだった。
心も体も、全部がボロボロで。
消えてなくなりたいと思うくらい、もうどうでもいいと思うくらい、自暴自棄になっていたときに。
フラッと立ち寄った写真展で先輩の写真に出会って、その写真にとりつかれたかのようにずっと見つめていた。
悲しみの中に溢れる温かさ、何もかも嫌になってるあたしのことを包み込んでくれるような優しさと、あたしの悲しみに寄り添ってくれるような温かさを感じて。
気がついたら、自然と瞳から涙か溢れていた。
ずっと泣けなかったのに。
悲しいのに苦しいのに、ずっと泣けなくて辛かったのに。
瞬きも忘れてその写真を見つめ、ボロボロと涙を流したことで。
色のない世界から、あの眩しいくらいのオレンジの世界に引き寄せられて。
あたしに色のある世界をを取り戻させてくれた。
「覚えてる?」
「はい……」
覚えてるも何も、一度だって忘れたことなんてない。
あたしはこの写真に出会えたから、今、こうして笑っていられる。
この写真を。
この写真を撮った先輩を。
ずっと思って生きてきた。