◇ヌードで魅せて◇


それなのに、彼のことが気になってしまう。

今まで妄想しているだけで満足だったのに。

先輩のことを気にしたことなんてなかったのに。

校内で先輩の名前を聞くだけで、よくわからないけれどドキドキした。


先輩を見かけるたびに、顔を背けて気づかないフリをした。

放課後、いつも暗室に篭っていたことを知ってるくせに。

だから何? 関係ない。自問自答する。


「あの人、嫌い」


中庭でみんなでランチタイム中。

たまたま見かけた吉良先輩の話になった。

カッコいいだの、クールだの、みんなが楽しそうに話している中。

あたしの口からは、そんな可愛くない言葉しか出てこない。


それはただたんに、自分のココロの中を隠すため。

先輩のことが気になってるだなんて、誰にも知られたくないって気持ちだけで。

簡単に口から零れる“嫌い”って一言。

だけど、言ったあとにいつも少し後悔するの。

こんなただの悪口だもの。


「葵ってホント先輩のこと毛嫌いしてるよね」


あたしがそう言うのは珍しいことでもなくて。

友だちも、また言ってる…くらいにしか思っていない。


それこそはじめのころは、何かあったの? なんて聞かれることもあったけれど。

今では、いつものことだとばかりに、あたしの言葉なんてサラリと流されて。

もう他の話題で盛り上がり始めていた。


中庭にみんなの笑い声が響き渡る。

他にも生徒の楽しそうな話し声が聞こえてた。


みんなの笑い声に合わせて、あたしも一緒に笑うけれど。

会話の内容なんて何も入ってこないため、ただの笑ったフリ。

みんなにバレないように、小さな溜息を吐いてしまうと。

隣に座る親友の美帆は、チラリとあたしを盗み見したあとに苦笑いしていた。



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