◇ヌードで魅せて◇


放課後。

美術部のあたしは、いつものように美術室へと向かって歩いていた。


「葵、バイバ~イ」

「バイバイ、また明日ね」

「そんなに急いで、これから部活?」

「そうなの」

「頑張ってね~!」

「うん、ありがと!」


だけど、いつもより早歩きなのは、日直の仕事で遅くなってしまったからだ。

早歩きってところが、なんだか優等生って感じもしなくはないけど。

美術室へ行くには、どうしても写真部の前を通らなければならないから。

バタバタと足音を立てたくないって言うのが、正しいところ。


すでに様々な部活動が始まっていて。

廊下はいつもと違った音が聞こえてくる。


校庭からは運動部のかけ声。

野球部、サッカー部、陸上部。

ここの上の階には音楽室があるためか、吹奏楽の楽器のチューニングの音。

それからコーラス部の発声練習なんかも聞こえてきていた。


この廊下を真っ直ぐに行けば美術室がある。

その通り道に、写真部の部室があって。

部活に行くときは毎回、ここを通っていくんだ。


写真部の部室の前を通りかかると、中から話し声が聞こえてきた。

楽しそうに弾んだ声の中、きっと先輩はいない。

たぶんだけど、そう思う。

先輩が誰かと楽しそうにしてるところなんて見たこともないし。

そんな先輩を想像できない。


それに先輩はだいたい暗室の中にいることが多いことを、あたしは知っているから。


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