◇ヌードで魅せて◇


戻る途中、我慢が出来なくてフルーツミックスのパックにストローを挿して。

チューっと吸い上げると、甘くて優しいいつもの大好きな味が口いっぱいに広がった。


「おいしっ」


幸せ、大袈裟でもなんでもなく素直にそう思う。


もう一つ買ったコーヒー牛乳は先輩用。

時間を確認するともうすぐ16時になるところだった。

真っ直ぐに美術室へは向わずに、足は自然と写真部の部室へと向っている。

部活開始時間になるから、今日もきっとあの部屋に先輩はいる。

本人に確認してわけでもないし、今日行きますなんて伝えてあるわけでもないけれど。

それでも、フラッとあの部屋を覗けば、いつもの位置に先輩の大きな背中を見つけることができた。


差し入れだなんて、たかがパックジュースで悪いけど。

それでも、少しは喜んでくれたらいいな…なんて思ってしまう。

昨日撮った海の写真も、できたら見せてもらいたいな…なんて密かに期待しながら。


周りに誰もいないことを確認してから、そっと扉に手をかけた。

相変わらずさび付いたドアはギギーッと嫌な音を立てて、思った以上に廊下によく響くからその瞬間はいつも緊張してしまう。

開けたとたんに舞い上がる埃も、少し淀んだ空気にもまだ慣れそうもない。

奥に入ってしまえば掃除もしっかりされていて、本当に別空間なんだもん。


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