◇ヌードで魅せて◇
今日は特に先輩に写真について何か言われたわけではない。
初めから何か作業をする予定で、あたしに声をかけなかったのかもしれない。
だったら戻ってこない先輩を待っているよりも、もう少し自分の絵も進めておけば先輩との時間をもう少し確保できるかもしれない。
また後で出直そうと立ち上がったとき。
ふと目に入ったいくつかのファイル。
それは、ここに初めて先輩に会いに来たときに落としてしまったファイルだった。
ヌードモデルなんて出来ません、なんて今思えばよく言ったものだ。
文化祭の作品がヌードだなんて、そんなの少し考えればわかるはずなのに。
慌てて拾い上げたファイルの中身はグチャグチャなままだった。
それこそ勝手に見てはいけないって思いながら、好奇心には勝てなくてファイルをそっと開いてしまった。
どれだけたくさんの写真を撮ってきたのだろう。
さっきパソコンで見たものとはまた違った雰囲気で、パソコンの写真がが哀愁なら、こっちのファイルの写真は愛しさを感じるまったく正反対のものに見えた。
それも、その雰囲気は途中から変わってるように思えた。
写真は時にその人の心を写す、なんて誰かが言っていたっけ。
絵を描いてても、そのときの感情で同じ空を書いたはずでも雰囲気がまるで違うものに見えてしまうときがある。
同じ青なはずなのに、嬉しくも悲しくも感じられるときがある。
写真もきっと同じで、このファイルの写真を撮っていたときの先輩はきっと幸せだったのだろう。
どっちの写真も、相変わらず素敵なことには変わらないけど。