After -deconstruction "God Ideology"
 そのマホウビトが回復するまでにはあまり時間はかからなかった.

最高指導者となり,立派な服をまとったヤルサはどうしてか例の津波にも耐えたぼろい牢屋まで足を運んだ.

牢屋には,他にいる者はなかった.

津波ではない.

裁判による処刑が行われたのだ.

この国ではマホウビトであるというだけ罪になる国なのだ.


 厳重な警戒の中で,面会は開始された.

ヤルサがマホウビトの顔を見た.

牢の中のマホウビトはさすがに楽しそうではないものの,落ち着いていた.

一方の追い詰めるヤルサはというと,そのマホウビトを一瞥しただけで,血の気が引いていき,冷や汗であの服がぬれていた.

すぐに後ろを向き,魔法牢をそそくさと去っていってしまった.


 衛兵は急変したヤルサの事を気遣い,そして何が起こったのかを尋ねた.

しかしヤルサは一言も答えなかった.

(あいつは…あいつは…まさか…確か捨てた…マホウビト撲滅もそのために…とりあえずあいつだけはなんとしても殺しておかないと…私の過去は…どうして今さら…しかし今ここで殺してしまえば,他国にどう説明しよう…変に勘ぐられても…どうすればよいものか…)

ヤルサはそれから三日間,部屋でその事をずっと考えていた.
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