ただ好きと言われただけで
研修時に、パートで先輩のおばさまに着いて貰いレジの打ち方やカード決済の方法、商品の戻し方やレジの閉め方等を教わり、研修生の名札を付けて仕事をした。時間は10時から15時までで基本給時給900円からのスタートだった。久し振りに働いたしコミュニケーションをたくさん取らなければならなかったし自分の覚えは悪いしで気疲れをした。終わってからぼーっとバックヤードに置かれているパイプ椅子に座っていると、とんとん、と誰かに肩を叩かれた。
「やましなさんって読む…んですか?」
振り向くと、十代に見える若い女の子が飲みかけのペットボトルを手にして私の顔を伺うようにして見ていた。
「え、あ、そうよ。山科です。……ええっと柏木さん、ですよね」
長い茶髪の髪は癖毛なのか先がゆるゆるとうねって、その髪は豹柄とレースの着いたシュシュでひとつに束ねられていた。唇は鮮やかな濃いめのコーラルピンクのグロスが塗られていて、爪は薄桃色のマニキュアが乗せてあって綺麗な形をしてる。マツエクなのかつけまなのか、私は今ひとつ見分けが付かないけれど睫毛はぴんと上向いていて、奥二重の猫目の瞼に跳ね上げるような黒いラインがさりげなく引かれていた。身長は162cmぐらいだろうか、平均的だけど私よりは幾分か高い。
「柏木みいなって言うんです。慣れてきたら、パートの人はみんなみいなちゃんとかって呼んでくれてます」
そう言ってから、その子は少し視線を泳がした。そうか。年下だし名前で呼んだっていいんだ。きっと高校生だよねこの子。仲良くしたい雰囲気を出してくれてるなら仲良くしよう。
「みいちゃん、でいいかな?私は山科るいって言うの。分からない事だらけで迷惑かけるかもしれないけど、宜しくお願いします」
「迷惑なんて。私入った頃ミスしまくりでしたよ。るいさん、真面目そうだから大丈夫ですよ」
みいちゃんはそう喋りながら私の隣のパイプ椅子に座った。るいさん、か。人懐っこいのだろうか、なんだか可愛い。年下の子と喋ってると自分まで若返ったような気分になって楽しい。いつの間にか自然に笑いながらみいちゃんと喋ってる私がいた。暫く他愛のない話をしていると、バックヤードの扉が開いて店長の弥生さんが書類を手に持ちながら入って来た。
「ああ、山科さんお疲れ様です。研修どうでしたか?」
「あ、えっと…まだわからない事だらけですけど、とても勉強になりました。明日から続き頑張ります」
「そんな固くならなくて大丈夫ですよ。全然大丈夫です」
側で話を聞いていたみいちゃんは少し間を置いてから口を開いた。
「……よいさん、ぜんっぜん態度違う。それ他のパートの人に怒られますよー?」
よいさん。よいさん?弥生さん、よいさんか。女子高生が店長に対して随分フランクな感じがしたけれど、今時はこういうのが普通なのかもしれない。今の若い子厳しくするとすぐ辞めちゃうらしいしね。
「みいちゃん、何言ってんの。終わったんなら早く帰んなさい」
弥生さんは困った顔をしてぺしぺしとあしらうように持っていた書類でみいちゃんの頭を軽く叩いた。やめてくださいよぅ、と楽しそうに文句を言う声が高く響いた。テンション高いな。でも可愛い。若い女の子って可愛い生き物なんだなって染み染みと痛感した。
「るいさん美人さんだから超優しくないですか店長。ね、るいさん」
「……えっ?私?美人じゃないよ。もう、変な事言わないで」
「……、美人さんですけどね」
ぽそっと言った声に思わず顔を上げて店長の顔を見た。また、優しく見守るような視線と目が合う。心臓が跳ねるような気がした。容姿、褒められる機会ってそういえば最近あんまりなかった。だってずっと家に居たんだもの。
内線が鳴り、何か用事で店長が呼び出され、またバックヤードから出て行ってしまった。ぱたん、と閉まった扉の音を聞いてからみいちゃんと目が合う。
「ふふ、ごめんなさい。でも店長あからさまなんだもん。私でなくても分かっちゃう」
「そう…なの?いつも優しい人なんじゃないの?」
「みんなにも優しいけどぉー、んー、なんか気の使い方が違うの。お気に入りなんじゃないですか?」
そんな事、言われてもな。
「でも私結婚してるし」
「それ、関係ないですよ」
きっぱりとみいちゃんはそう言うと、何故か分からないけど真筆な表情をして私を見つめていた。
「結婚してても、彼女がいても彼氏がいても、一緒なんです。好きになったら好きなんですよ。だって、絶対にフリーの人を好きになるって決めれるもんじゃないですよ」
妙に、私はその言葉に感心してしまった。女子高生侮れない。…一番多感な時期だからか。10代は一番恋情という刹那の感情に対して真筆に向き合う事が出来る年齢なのかもしれない。
「やましなさんって読む…んですか?」
振り向くと、十代に見える若い女の子が飲みかけのペットボトルを手にして私の顔を伺うようにして見ていた。
「え、あ、そうよ。山科です。……ええっと柏木さん、ですよね」
長い茶髪の髪は癖毛なのか先がゆるゆるとうねって、その髪は豹柄とレースの着いたシュシュでひとつに束ねられていた。唇は鮮やかな濃いめのコーラルピンクのグロスが塗られていて、爪は薄桃色のマニキュアが乗せてあって綺麗な形をしてる。マツエクなのかつけまなのか、私は今ひとつ見分けが付かないけれど睫毛はぴんと上向いていて、奥二重の猫目の瞼に跳ね上げるような黒いラインがさりげなく引かれていた。身長は162cmぐらいだろうか、平均的だけど私よりは幾分か高い。
「柏木みいなって言うんです。慣れてきたら、パートの人はみんなみいなちゃんとかって呼んでくれてます」
そう言ってから、その子は少し視線を泳がした。そうか。年下だし名前で呼んだっていいんだ。きっと高校生だよねこの子。仲良くしたい雰囲気を出してくれてるなら仲良くしよう。
「みいちゃん、でいいかな?私は山科るいって言うの。分からない事だらけで迷惑かけるかもしれないけど、宜しくお願いします」
「迷惑なんて。私入った頃ミスしまくりでしたよ。るいさん、真面目そうだから大丈夫ですよ」
みいちゃんはそう喋りながら私の隣のパイプ椅子に座った。るいさん、か。人懐っこいのだろうか、なんだか可愛い。年下の子と喋ってると自分まで若返ったような気分になって楽しい。いつの間にか自然に笑いながらみいちゃんと喋ってる私がいた。暫く他愛のない話をしていると、バックヤードの扉が開いて店長の弥生さんが書類を手に持ちながら入って来た。
「ああ、山科さんお疲れ様です。研修どうでしたか?」
「あ、えっと…まだわからない事だらけですけど、とても勉強になりました。明日から続き頑張ります」
「そんな固くならなくて大丈夫ですよ。全然大丈夫です」
側で話を聞いていたみいちゃんは少し間を置いてから口を開いた。
「……よいさん、ぜんっぜん態度違う。それ他のパートの人に怒られますよー?」
よいさん。よいさん?弥生さん、よいさんか。女子高生が店長に対して随分フランクな感じがしたけれど、今時はこういうのが普通なのかもしれない。今の若い子厳しくするとすぐ辞めちゃうらしいしね。
「みいちゃん、何言ってんの。終わったんなら早く帰んなさい」
弥生さんは困った顔をしてぺしぺしとあしらうように持っていた書類でみいちゃんの頭を軽く叩いた。やめてくださいよぅ、と楽しそうに文句を言う声が高く響いた。テンション高いな。でも可愛い。若い女の子って可愛い生き物なんだなって染み染みと痛感した。
「るいさん美人さんだから超優しくないですか店長。ね、るいさん」
「……えっ?私?美人じゃないよ。もう、変な事言わないで」
「……、美人さんですけどね」
ぽそっと言った声に思わず顔を上げて店長の顔を見た。また、優しく見守るような視線と目が合う。心臓が跳ねるような気がした。容姿、褒められる機会ってそういえば最近あんまりなかった。だってずっと家に居たんだもの。
内線が鳴り、何か用事で店長が呼び出され、またバックヤードから出て行ってしまった。ぱたん、と閉まった扉の音を聞いてからみいちゃんと目が合う。
「ふふ、ごめんなさい。でも店長あからさまなんだもん。私でなくても分かっちゃう」
「そう…なの?いつも優しい人なんじゃないの?」
「みんなにも優しいけどぉー、んー、なんか気の使い方が違うの。お気に入りなんじゃないですか?」
そんな事、言われてもな。
「でも私結婚してるし」
「それ、関係ないですよ」
きっぱりとみいちゃんはそう言うと、何故か分からないけど真筆な表情をして私を見つめていた。
「結婚してても、彼女がいても彼氏がいても、一緒なんです。好きになったら好きなんですよ。だって、絶対にフリーの人を好きになるって決めれるもんじゃないですよ」
妙に、私はその言葉に感心してしまった。女子高生侮れない。…一番多感な時期だからか。10代は一番恋情という刹那の感情に対して真筆に向き合う事が出来る年齢なのかもしれない。