漆黒の白雪姫。【完】
1.
*
真っ赤な真っ赤な紅色のリンゴ。
月光に当てられ、艶やかなリンゴ。
そんなリンゴを何も置かれてないテーブルの上に置いた少女。
漆黒を連想させる黒の艶やかな髪をした少女は、真っ赤な唇を弧を描かした。
「まるで血のようね」
リンゴに皮肉を言った。
血でもこのリンゴの色は、静脈血のようなくすんだ赤でなく、動脈血のような鮮やかな赤だ。
「これで、やっと死ねる」
少女は、嬉しそうに目を細めた。
真っ赤なリンゴには毒を入れてあり、一口食べると毒は体全体に回る。
回りきるまでの時間は、わずか1分。
彼女の最高で最悪の毒は、彼女の体を蝕(むしば)んでいくのだ。
魔女、と人から呼ばれる彼女。
美しい上に、賢い。
彼女程美しい者は存在せず、彼女程賢い者も存在しない。
ゆえに彼女を利用する者は多くいた。
身近にいけば、彼女の両親、祖父母、従姉、叔父や叔母。
彼女の味方は誰もいなかった。
彼女は、毒入りのリンゴを手に取り、口元に持っていく。
小さな口を最大に開いて、リンゴをかじろうと、歯を立てようとした。
それはやろうとしただけで、出来なかった。
なぜなら、
「諏訪 白雪(すわ しらゆき)。あなたを殺しに来ました」
月を背に窓枠に座る灰色の綺麗な瞳をした殺人鬼がいたから。