漆黒の白雪姫。【完】
「あなたは、誰かしら」
私は綺麗な灰色の瞳を睨んだ。
「殺し屋、といったところかな」
男は私の睨みに動じるわけでもなく、ヘラヘラ笑う。
「へぇ。誰に依頼されたのかしら」
「さぁ、誰でしょうか。俺的には、君ほどの人を殺すなんて勿体ないなぁって思うけど」
今さっき自殺しようとしていました。
なんて、言ってあげないけど。
「なら、早く殺してくれない?」
「君、死にたいの?」
「何でもいいでしょう?早くして」
男はどっからかナイフを取り出して、それをペン回しのように手元で遊び始める。
怪我しちゃえ。
と思ってたら、ナイフは動きを変え、床に急降下。
ドサッ。嫌な音とともに床にナイフが刺さった。
あのナイフはなかなか切れ味が良いらしい。
「ダサいですね、落とすなんて」
「ははっ。確かに。けど、結構これ難しいからね」
「へぇ」
静かに笑うこの男は、本当に殺す気があるのだろうか。
ふぅ、と落ち着くように吐息を吐き出した彼は、さっきと違う笑みを浮かべる。
まるで、月のような笑みだ。
太陽みたいにキラキラとしていなくて、静かで、穏やかでいて、美しい。
「俺はね、死ぬのを拒む人を殺すのが好きなんだよね」
綺麗な顔には似つかない狂気の言葉だった。