ああ、運命のアナタ
出会いとは
突然だが運命の出会いというものはあるのだろうか?
人は生涯に三人の運命の出会いがあるらしい。
これは今から約十年ほど前のゴールデンウィークでの出来事。
せっかくの大型連休なので、人気のアミューズメントパークへ行こう! ……という案でいきなり朝というよりほぼ夜中に叩き起こされ意識が朦朧とする中、高速道路をぶっ飛ばすこと数時間、開園には間に合わなかったがそれでも目的の遊園地へはどうにか到着することができた。
入場券を購入し入口ゲートを潜ると、やはりというかゴールデンウィークということもあって、その日の園内は大勢の利用客で賑わっていた。
暑い陽射しの下、半袖に短パンといった薄い服装にも関わらず流れる汗を拭いながら園内に入る前から目をつけていた目的のアトラクションに近づくと、そこは既に長蛇の列と化しており、その凄まじさにこれでもかと目を見開いてしまった。
人の列と容赦ない太陽の陽射しに一瞬意識を手離してやろうかという考えが何度も浮かんでは消える中、その長蛇の列の最後尾に着くや否や事前に購入していたペットボトル飲料の口を開け、中身を一気に咽の奥へと流し込む。
全てを胃の中に収め、身体の中の体温が下がるのを実感しながら一息着くと、何やら楽しげな笑い声が近付いて来るのが聞こえたので振り返ってみると、二人の女の子が仲良く後ろに並んできた。
日に焼けた健康的な手足がTシャツ短パンといった自分と似た服装から覗かせる少し幼さはあるが充分に可愛い部類に入るであろう容姿をした中学生くらいの元気な女の子は暑い暑いと笑いながらシャツの胸元を摘まむとパタパタと扇ぎ、シャツの中に籠った熱を外に逃がしている。
その仕草を微笑みながら「ホントに暑いね」と七分丈程の白い上着の袖を捲り上げ、鞄の中から日焼け止めクリームを取り出すとその腕に塗り始めるのは、先の少女とは対照的に透き通るきめ細かな美しい俗に言う〝白魚のような〟綺麗な肌を持つ大人びた雰囲気のもう一人の女の子。
いや、暑かったらそんな服着るなよ……とも言えずその光景を見ていると、ふいに目が合う。
然り気無く目を反らそうとするもタイミングを見失い、そのまま見つめ合うこと数秒。
このまま気まずい雰囲気が流れるのも時間の問題だな……等と冷静に考えていると、「あっ」と小さく声を出し彼女は、はにかみながら軽く会釈してきた。
せ……セーフ。
変なやつと思われたかどうかは分からないが悪い印象は与えてはないみたいなのでこちらも軽く会釈する。
まあ、悪い印象を与えた所で金輪際会うことのない相手なのでどうでもいいことなのだろうが……やっぱりこのアトラクションに並んでいる間、嫌な相手といる空間の空気は旨いものではない。
そんな小さな事を考えている間に長かった列もとうとう自分の番になり、何だかんだでそのパーク自慢の人気アトラクションを楽しむことが出来た。
……と、思えたのも束の間、次に目的のアトラクションに到着すると、今度はさっきの二人はなんと既に自分より先に並んでいた。
「あ……これあかんパターンや」
そう感じるや否やそのお目当てのアトラクションから足早に遠ざかることにした。
まあ、他にも行きたいアトラクションはまだあることなので、先に違う所を回ってからもう一度戻ろうと考えを改め園内を探索する。
だが、しつこいようだが流石はゴールデンウィークというだけあってやはり目に写るのはどこもかしこも長蛇の列なので、時間は早いが先に軽く昼食を摂ろうとフードコートに行くことにした。
ファーストフードコーナーで適当に購入した商品を乗せたトレイを持ちながら座れそうなテーブルは無いかと周囲を見渡すと、偶然にも空いている場所を見つけたのでさっさと座ってしまおうと空席に向かうと――
「……マジか」
その唯一空いていたテーブルは半袖のシャツに短パン姿の元気な少女が我先にと小走りで陣取ってしまった。
「お姉! ポテト買ってきて!」
と彼女が声をかけた先には……やはりと言うか案の定、あの少し大人びた格好をした童顔の少女がいたわけだ……どうやら彼女達は姉妹らしい。
やられたと思いながらも周囲をもう一度見渡すと丁度食事が終わったばかりの家族連れが「よかったらどうぞ」と、声をかけてくれたので一言礼を告げそこに着席する。
しかしこう何度も出会すのも何かの――
「呪いか?」
こんな答えしか出てこなかった。
席に座り食事を始めながらふと、例の姉妹に目をやると派手な格好の姉は鞄からミニチュアの香水を取り出すと、その口を手首に付けて擦りあわせる。
こんなとこで香水なんか付けるなよ! と、言えるわけもなくさっさとファーストフードを胃に納め、そそくさとフードコートから退散する。
それから行く先々のアトラクションでその姉妹と当たり前のように遭遇するも、気付かない素振りを繰り返し時刻は夕方。
お土産を販売している店舗に入り、混雑する人混みをかき分けて両手にお土産を抱えながらレジに並び何気無く後ろを振り返ると――
「ちょ」
なんとまたその姉妹の姉が、お土産を詰め込んだ買い物籠を持って真後ろに立っていた。
まさかの遭遇に動揺してしまい手に持っていたお土産をバサバサと落としてしまうと、それを見た姉妹の姉は「あっ!」と、声を上げると直ぐにしゃがみこんで落としてしまったお土産を拾い始めてくれた。
――気のきく優しい良い娘じゃないか。
見た目は少し派手目だがそれは背伸びをしたがっているだけで内面は心の綺麗な娘なのだろう。
妹もそうだが確かにこの姉の容姿も整っている。彼女を見れば十人が十人共、彼女は美人の部類だと口を揃えて言うだろう。
そんな容姿も心も綺麗な少女の目を反らし、避けてしまっていた自分に嫌悪感を抱く。
しかし直ぐ我に返り慌てて膝を降ると、彼女と共に自分の落としたお土産を拾う。
「大丈夫ですか? はい。どうぞ」
拾ったお土産を優しい笑顔で手渡してきた彼女の手元からは先程フードコートで付けたであろうあの香水の香り――
――よりも凄まじい速さで鼻腔へと襲い掛かってくるスモーキー且つ芳ばしい芳醇な薫り!
「――くさっ!?」
「へっ――はい? あ、どうぞ?」
「あ、それいいです大丈夫です」
「えっ?」
「えへっ」
可愛くその場にしゃがみこみ、お土産を此方に手渡そうとする姿勢のまま呆然とするそいつに目もくれず、更に拾われたお土産も受け取らずに店から出た。
「あれー? お土産買わんかったんー?」
「おう、人いっぱいやし並ぶのめんどくさいやん? だからもうちょい後でゆっくり買うわ! それに――」
「ん? それに?」
「あの店超ワッキーおるしあんなとこ並んどったらガリガリHP削られるわ!」
「ちょwwwそれ何て毒の沼地www怖いwww」
「やろ? だから人もニオイも消え去るまでゲーセンで時間潰そうぜ!」
「わかったwwwあたしマリカーしたいwww」
「別に俺したくない」
「ちょwww」
――こんな感じで客足が減るまでゲーセンで時間を潰し、もしかしたらあそこでお土産を一緒に拾い、そのままそれが切っ掛けで後の人生で最高のパートナーになる予定になる運命的な出逢い……だったかも知れない的なフラグも潰した。
まあ、確かに顔は可愛かったかも知れないが……はっきり言ってタイプとは全く違うし――
まぁ、十人十色という言葉もあるからタイプは人それぞれなのだろうが、俺は――
毒ガス振り撒く無差別テロリストなんか超圏外ッスよ圏外。
ちなみに「あたしマリカーしたいwww」と、もうすぐ結婚……
十周年
完。