気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
景さんの息を吐くような冗談に、わたしは心の奥でドキッとしながらも顔にださないようにする。

軽い感じでそういうことを平気で言わないでほしい。
わたしが真に受けて、本気にしちゃったらどうするのよ。

「俺、本当にああいう食事久々だったからさ。今日、春ちゃんを部屋に連れ込んでよかった」

「連れ込むって……変な言い方しないでくださいよ。仕事で来たんですから」

「……そっか、そうだな。じゃあ春ちゃん、いいことおしえてやる」

そう言った景さんは目を細めて、右手の人差し指をクイクイッと動かしてわたしにもっと近づくよう促した。

なんだろう、と思いながら景さんの横へ立ったとき――右腕が伸びてきて、一瞬だけ腰を浮かせた彼の手がわたしの後頭部を抱えるように引き寄せた。

「きゃっ……!」

「実は、部屋に連れてきたときからずっと襲いたくて仕方なかったって言ったらどうする?」

咄嗟にソファへ座って、そのまま景さんの方に上半身が傾いたとき、彼がわたしの耳元でゆっくりと囁いた言葉に息をのんだ。

景さんの手が、髪を結んでいるシュシュに移動して軽く掴む。
そのとき、痛くない程度に髪が引っ張られて、伝わってきたその感覚に体がゾクッと震えた。
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