気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
賀上さんは急いでいるようで、いつもより早口でわたしに伝えると、新しいデザインの要望をまとめた書類を差し出してきた。

突然でどうしよう、と思って賀上さんにもう少し詳しく話を聞きたいのに、わたしが書類を受け取ると賀上さんは「よろしくな」と言ってわたしに背を向けて行ってしまった。

ちゃんと声をかけられないまま、オフィスを出ていく賀上さんと手元の書類を交互に見て気持ちが焦りだす。

大丈夫、落ち着こう。
納期も少し伸びたわけだし、明日になれば賀上さんも手が空くと言っていた。そうしたら一緒に確認してくれるだろう。

デザインの変更を求められたからって、混乱することはない。

わたしは軽く息を吐いて、作業画面に向かった。

だけど、心細かった。
はじめて任された大きな広告デザインで、急に変更を求められたということはわたしのデザイン自体がダメなのではないかと、作業をしながら何度も考えてしまって上手く進まない。

ただ時間だけが過ぎていって、気づくと時計は夜の九時を過ぎていた。
わたし以外で残っていたもうひとりが「お疲れ様です」と帰っていく姿に頭を下げて、再び気持ちが焦りだす。

どうしよう。ちゃんと賀上さんに話を聞いておけばよかった。
先程からずっと同じ文字の配置をやり直していて、ひとりになったオフィスでクリックするマウスの音だけが響く。
< 65 / 107 >

この作品をシェア

pagetop