気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
隣の椅子に腰かけた景さんは、ちょっと不機嫌そうだった。
通路で問い詰められてそのまま、話しかけることもできずにいたから怒っているのかな。

「俺、避けられてるみたいだから、もう声かけてやらないと思ってたけど。……やっぱり、放っておけないから」

デスクに肘をついて、ツンとした顔をしながらふて腐れた言い方をした景さんだけれど、放っておけないという言葉に優しさを感じて胸が熱くなった。

「景さん……避けてごめんなさい。峯川さんのことで、もやもやした気持ちが整理できていなくて……」

好きだから嫉妬してしまって、考えたくなくて、ということは口には出さなかった。
すると、景さんは短く息を吐き出してわたしのデスクにあるファイルを手に取った。

「あのとき、春ちゃんがどうして礼香さんに怒っていたのか、本当は全部聞こえていたからわかってたよ」

「え……?」

「俺のことを酷く言われて、会社を馬鹿にされたような気がしたから怒ってくれたんだろ」

「あ、あの、わたし」

「俺は気にしていない。礼香さんに『がっかりした』って、春ちゃんが席にいないときに直接言われたし。礼香さんがなんて言おうと俺は今の環境が一番自分に合っていると思うし、そう思うだけの自信もあるから」

ファイルに挟まったデザインの変更指示に目を通しながら、本当に気にしていない、という雰囲気でそう言った景さん。

不意にわたしを見た彼は、素っ気なく感じたけれど。

「怒ってくれてありがとう。でも、俺を避けないでくれよ」
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