気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
わたしの顔を見た景さんは、軽く目を見開いて驚いたような表情をした。

「……顔真っ赤だけど」

「えっ、いや、あのっ」

最悪だ……。思い出して真っ赤になっているのを見られるなんて。
恥ずかしくて、今すぐエレベーターを降りたい、無理だとわかっているけれど!

「きょ、今日暑いですよね」

「そうかな」

「そ、そうなんです、わたしは」

「俺とのキスを思い出して顔赤くしてるんじゃないの?」

景さんの言葉にドキン、と胸が大きく鳴った。
わたしの心を探るように、そしてどこか狡猾そうなことを考えているような瞳を向けてくる景さんに鼓動がどんどん速くなる。

その通りだと、認めたらなんて言われるのだろう。
『あんなの冗談に決まってるじゃん』
いつものいたずらっぽい笑みを浮かべて彼が言いそうなことを思い浮かべると、喉の奥になにかが詰まるような感じがした。

そこでちょうど、エレベーターが一階に止まってドアが開く。

視線を残すようにしながら歩き出して先に降りた景さんの背中を見つめたまま、わたしは動けなかった。

冗談だったの? 軽いノリだったの? それとも……。景さんのことを好きな気持ちが、淡い期待とちくちくと刺すような胸の痛みを交互に運んでくる。

『扉が閉まります』というアナウンスにはっとし、慌てて降りたわたしは、景さんを食事に誘おうとしていたのを思い出して彼を追いかけた。
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