気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
聞くのが怖いけれど、でも、景さんの気持ちが知りたい。

彼への恋心が騒ぎだす。ずっと留めていた好きという想いが、背中を押すようだった。

「景さん――」

陽が沈んで暗くなったビルの外へ出たところで、立ち止まった景さんに追いついた。
数歩後ろから呼んだけれど、彼は振り向かない。その理由がわかって、わたしの背中を押していた想いに急ブレーキがかかる。

――景さんが見ている方向に、峯川さんがいる。

「景くん、さっき電話したんだけど繋がらなくて」

「あ、スマホ電源切ったままだ」

「もう、なにしてるの! 三回くらい掛けちゃったわよ」

「すみません。今入れますよ」

「遅いわよもう。いいわ、電源はそのまま切っておいて。ふたりの時間を邪魔されたくないし」

歩道脇から景さんに向かって歩いてきた峯川さんは、その後ろにいるわたしを見ながら話す。

「景くんに用があるの? わたしは、昨日から約束しているんだけど」

わたしの気持ちを知っていて、わざとなのではないかと思う。
嫌な笑みを浮かべた峯川さんを見ている視界の端で、景さんがわたしに振り向いたのがわかった。

視点をずらすと、無表情でわたしを見ている彼と目が合う。

峯川さんと会う約束をしていたんだ。
どちらが会いたいって言ったの……?

「行きましょう、景くん。大事な話の続きをしたいわ」

「はい」

“大事な話”って、確かこの前にも言っていた。一体、なんの話なの?

黙ったまま突っ立っているわたしから視線をそらした峯川さんは、景さんの腕を引っ張った。
そして景さんは、ためらうことなくわたしに背を向ける。
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