気まぐれイケメン上司に振り回されてます！
近い距離で向き合うことになって思わず顔を上げると、賀上さんが眉根を寄せてわたしを見つめる。
心配するような表情と、はじめて近くで合わせた視線に鼓動がやたらと速くなった。

「……なにがあった？」

話す気にさせようとする、低音の静かな声。
だけど今のわたしは、ひとつひとつ賀上さんに説明するような気分にはどうしてもなれない。

ただ、我慢していた涙がそっとこぼれた。

悔しいのか悲しいのか、よくわからない。
景さんが峯川さんのことを好きかもしれないこと、ふたりが会う約束をしていたこと、結局キスは冗談だったのかもしれないこと。

すべてのことが交じり合って、涙に変わった。

「す……すみません、つ、疲れてるのかな……」

強がろうとしても、どんどん流れる涙は止まらない。
会社の前で泣いて賀上さんにそれを見られるなんて、恥でしかないのに。お願いだから、早く止まって。

「吉葉か」

賀上さんの視線が少しの間わたしから外れ、歩道を見ている。
答えないまま、わたしは手の甲で涙を拭っていた。

「……泣くなよ。あんまり泣かれると、慰めるたくなる」

優しい声でそう言った賀上さんは、わたしの頭をそっと触った後、顔を両手で包むようして親指でそっと目元を撫でた。

涙の痕が、賀上さんの手で何度か消されていく。
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