気まぐれイケメン上司に振り回されてます！
賀上さん……？
ゆっくりと顔が近づいてくるのがわかって、男の人の色気を纏う賀上さんに目を見開いたまま動けなかった。

「男の前で泣いて、付け込まれて手を出されても文句言えないぞ。女の泣き顔に弱い男は結構多いんだからな。だから、そろそろ泣き止め。このままだと俺が悪い男になりそうだ」

わたしの額を拳で軽くコツン、と叩いた賀上さんはからかうような笑みを浮かべた。

なんだかいつもとは違う賀上さんを見たような気がして、泣きながらも驚いているわたしに賀上さんは、「女としてその顔はマズイ」とやんわり指摘してきた。

「か、賀上さんが急に近づいたからっ……！」

「唇くらい奪っておけばよかったか？」

「ち、違っ……」

心なしか涙もおさまってきたように思う。
慌てるわたしをクスクス笑った賀上さんは、再びわたしの頭をポンポンと撫でた。

ビルの前で通りかかる人の目につかないように、わたしを歩道の方から隠すようにしてくれる。

しばらくそのまま頭を撫でてもらっていたら、少しだけ気持ちが落ち着いてわたしは深く息を吐いた。

「すみません、急に泣いたりして。……落ち着いてきたので平気です」

「そうか……」

泣き顔を見られた気まずさに、この場から去って家に帰りたいと思う気持ちを賀上さんは感じとってくれているのか、再びなにがあったのか聞くようなことはしてこない。

ぺこりと頭を下げたわたしは、申し訳ないと思いながら「帰ります」と告げた。

「気を付けろよ。どうしても辛かったら、俺に連絡してこい。わかったな？」

「はい。ありがとうございます」

最後まで賀上さんの気遣う視線が追ってきたのを感じたけれど、わたしはとにかく、家に帰りたくて歩き出した。

そして帰宅してすぐににシャワーを浴びると、景さんのことを想ってまた滲んできた涙がお湯と一緒に流れていった――。
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