気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
「じゃ、俺は帰るよ。仕事は任せておいて。ちゃんとやるからー」

「あーっ!」

ドアのそばに立ってにこにこしている景さんを見て、わたしは勢いよく立ち上がる。
気が緩んだ一瞬の隙をつかれた!

早々と出ていった景さんを通路まで追いかけるけど、彼は止まらない。
悔しい、悔しすぎる!
今日はちゃんと仕事してくれると思ったのに。

「もうっ、景さん!」

わたしが呼ぶと、彼は体半分だけ振り向いた。

「悔しかったら捕まえてみなよ、俺を」

いたずらな笑みが、エレベーターの中へ消えていく――。

本当に帰っちゃうなんて信じられない!
少しは反省してくれているのかなって思ったのに、謝罪の言葉は心からのものじゃなかったのね!

わたしは唇を噛みながら彼が去っていった方を見つめていた。



「まったくもう! あの人、いつも隙を見て逃げるんだから!」

「あー、はいはい。またあの『景さん』ね」

春の暖かな日差しが気持ちいい、日曜日の午後。行きつけのカフェレストランの隅っこにあるテーブル席で、わたしは友達の沙穂子《さほこ》とパスタを食べながら景さんの話をしていた。

沙穂子とは高校時代からの仲で、仕事の話や恋愛の話などいろいろなことを相談したり、景さんのこともこうして会うたびに聞いてもらっている。

なので沙穂子はお馴染みの話題にまたか、という顔をしていた。
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