気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
景さんの瞳が切なげに揺れて、わたしの胸がぎゅっとなる。
わたしのことを壁に押し付けて余裕がなさそうだったのは、そういう気持ちになっていたからだったんだ……。

「キスをしたのは、泣いてる春ちゃんに我慢できなかった。かわいかったから」

我慢できなかったって、そんなふうに言われちゃうと恥ずかしい。
あのときのことを思い出して、胸が鳴ってしまった。

「それから礼香さんのことだけど。下手に誤魔化したくないからはっきり言う。俺、昔礼香さんに本気で惚れてた」

「……はい、知ってます。賀上さんから聞きました」

「あのオッサン、喋ったのか。春ちゃんは知っていたから、俺に礼香さんのことを聞いたんだな」

「峯川さんに会ったときから、景さんの態度がいつもと違うなと思ったので、なにかあるんじゃないかと感じていました」

「そうか……。まあ、好きだった人に再会して正直、相変わらずプライド高くて綺麗だなってドキッとしてた」

「……ですよね」

「でも、それは最初だけだった。確かに礼香さんは綺麗で、仕事の話も興味深いものばかりで、俺が好きだった人だけど……春ちゃんに避けられたりしたことで俺、よくわかったんだ。今の俺が一緒にいて楽しいって思えたり、気になったり、そばにいてほしいと思うのは……」

そこで言葉を止めた景さんは、わたしをじっと見つめた。
間を置かれて、高鳴る鼓動がもっと騒がしくなる。

「春ちゃん……俺、君のことが好きだ」

全身がいっきに熱くなるようだった。景さんの言葉が何度も頭の中で繰り返される。
本当に……? 聞き間違えてなんかいないよね?
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