密星-mitsuboshi-
早紀は一瞬、何が起きたのか分からなかった
引かれるままに、早紀の身体はその力強い腕の中におさまった
光の入らない給湯室
電気をつけなければ隅の方などほとんど見えない
薄暗い中
体温を通して伝わる鼓動と
忘れたくても忘れられないあの香りが鼻を通って脳をしびれさせる
抱きしめている腕を緩めて優しく腰に回し、通路からは死角になる壁に早紀を押し付けたのは
朝から姿がみえなかった渡瀬だった
「ちょ、ちょっと!
…何をっ…」
渡瀬は早紀の唇に人差し指を立てた
「しっ。
大声出すと誰か来るかもよ?」
確かにこんなところ誰かに見られたら、いくら言い訳しようにも誰も信じないだろう
早紀は小さく深呼吸をして、渡瀬を目を見る目に力を込めた
「…それで
こんなとこで何を?」
「そこの会議室で朝から会議。
急な電話で出たら君が通るの
が見えた」
「…でもっいきなり腕を引っ張る
なんて」
「こうでもしなきゃ話しをしてく
れないだろ」
「っ…そんなこと」
「なぜ電話に出ない?」
「た、たまたま電池が切れて…」
「なるほどね」
渡瀬は口元だけ笑うと、腰にまわしている腕に力をこめて早紀の身体をグっと引き寄せると
近づいた唇に思いきり自身の唇を押し当てた
驚きと同時に身体の力が抜け、手に持っていたファイルやら書類が足もとに散らばる音が耳に入ったが
思い遣る余裕などなかった
渡瀬は自由になった早紀の手首を壁に押し付けさらに激しく唇を喰んだ
唇をこじ開け容赦なく入ってくる舌の動きに早紀はもう立っているのもやっとだった
渡瀬の唇はそのまま首筋へ移り、胸元手前で止まって小さく吸いついた
「嘘はつかない方がいい
なぜ電話にでなかった?」
渡瀬は上気した早紀を真剣な目で見た
観念した早紀は、荒くなった呼吸を整えながら小さく声を出した
「…っ付き合っている人が
いるって聞いて…」
言葉にすると、急に涙が溢れ出してきた
考えてみたら林田から事実を聞いてからずっと頭で考え続けていて
涙を流すことを忘れていた
渡瀬はその言葉を聞くと、目を伏せ大きく溜息をついた
そしてすぐに、目の前で涙を流す早紀を抱きしめ優しく髪を撫でた
「無理に言わせて悪かった
やっぱりそうだったか…
林田に聞いた?」
「…林田さんは悪くない!
話の流れで知ったことで…」
「わかってる。
林田を責める気はない、
俺の責任だ
昨日の朝ホテルでもいったけど…」
渡瀬は早紀の両頬に手を置きそのまま自分の顔まで引き寄せた
「半端な覚悟で社内の女に遊びで
手を出すなんて危険ことは出来ない
俺の相手を知ったならその意味は
よくわかるな?」
早紀は小さくうなずいた
その時、通路の方からドアの開閉音が聞こえた
思わず息を殺す2人
しばらくそのままでいると
またドアの開閉音が聞こえた
渡瀬は腕時計に目をやって
「大丈夫、きっと会議室に誰か
出入りしたんだろう
…俺ももう戻らないと…」
そう言ってその場から通路をうかがった
そしてもう一度早紀の顔に触れ
「今日、仕事が終わったら
東京駅で待ってて
ちゃんと話したい」
早紀はまた小さくうなずいた
それを見た渡瀬は優しく微笑んで頭を撫で給湯室から出て行った
早紀はその場にヘナヘナと座り込んだ
床に手をついた時、散らばった書類が触れた
(そうだ、早く吉田課長に持っていかないと…)
早紀は書類を拾い集めてやっと立ち上がり、給湯室の横にある女子トイレに入った
パウダールームの鏡に自分を映すと、思わず目を見開いた
早紀の胸元すぐ上に、薄赤い印がつけられている
早紀は慌ててトップスの胸元を引き上げた
胸元を気にしながら5階の自分のオフィスに戻り
何事もなかったかのように吉田に書類とファイルを手渡して自分のデスクに座った
引かれるままに、早紀の身体はその力強い腕の中におさまった
光の入らない給湯室
電気をつけなければ隅の方などほとんど見えない
薄暗い中
体温を通して伝わる鼓動と
忘れたくても忘れられないあの香りが鼻を通って脳をしびれさせる
抱きしめている腕を緩めて優しく腰に回し、通路からは死角になる壁に早紀を押し付けたのは
朝から姿がみえなかった渡瀬だった
「ちょ、ちょっと!
…何をっ…」
渡瀬は早紀の唇に人差し指を立てた
「しっ。
大声出すと誰か来るかもよ?」
確かにこんなところ誰かに見られたら、いくら言い訳しようにも誰も信じないだろう
早紀は小さく深呼吸をして、渡瀬を目を見る目に力を込めた
「…それで
こんなとこで何を?」
「そこの会議室で朝から会議。
急な電話で出たら君が通るの
が見えた」
「…でもっいきなり腕を引っ張る
なんて」
「こうでもしなきゃ話しをしてく
れないだろ」
「っ…そんなこと」
「なぜ電話に出ない?」
「た、たまたま電池が切れて…」
「なるほどね」
渡瀬は口元だけ笑うと、腰にまわしている腕に力をこめて早紀の身体をグっと引き寄せると
近づいた唇に思いきり自身の唇を押し当てた
驚きと同時に身体の力が抜け、手に持っていたファイルやら書類が足もとに散らばる音が耳に入ったが
思い遣る余裕などなかった
渡瀬は自由になった早紀の手首を壁に押し付けさらに激しく唇を喰んだ
唇をこじ開け容赦なく入ってくる舌の動きに早紀はもう立っているのもやっとだった
渡瀬の唇はそのまま首筋へ移り、胸元手前で止まって小さく吸いついた
「嘘はつかない方がいい
なぜ電話にでなかった?」
渡瀬は上気した早紀を真剣な目で見た
観念した早紀は、荒くなった呼吸を整えながら小さく声を出した
「…っ付き合っている人が
いるって聞いて…」
言葉にすると、急に涙が溢れ出してきた
考えてみたら林田から事実を聞いてからずっと頭で考え続けていて
涙を流すことを忘れていた
渡瀬はその言葉を聞くと、目を伏せ大きく溜息をついた
そしてすぐに、目の前で涙を流す早紀を抱きしめ優しく髪を撫でた
「無理に言わせて悪かった
やっぱりそうだったか…
林田に聞いた?」
「…林田さんは悪くない!
話の流れで知ったことで…」
「わかってる。
林田を責める気はない、
俺の責任だ
昨日の朝ホテルでもいったけど…」
渡瀬は早紀の両頬に手を置きそのまま自分の顔まで引き寄せた
「半端な覚悟で社内の女に遊びで
手を出すなんて危険ことは出来ない
俺の相手を知ったならその意味は
よくわかるな?」
早紀は小さくうなずいた
その時、通路の方からドアの開閉音が聞こえた
思わず息を殺す2人
しばらくそのままでいると
またドアの開閉音が聞こえた
渡瀬は腕時計に目をやって
「大丈夫、きっと会議室に誰か
出入りしたんだろう
…俺ももう戻らないと…」
そう言ってその場から通路をうかがった
そしてもう一度早紀の顔に触れ
「今日、仕事が終わったら
東京駅で待ってて
ちゃんと話したい」
早紀はまた小さくうなずいた
それを見た渡瀬は優しく微笑んで頭を撫で給湯室から出て行った
早紀はその場にヘナヘナと座り込んだ
床に手をついた時、散らばった書類が触れた
(そうだ、早く吉田課長に持っていかないと…)
早紀は書類を拾い集めてやっと立ち上がり、給湯室の横にある女子トイレに入った
パウダールームの鏡に自分を映すと、思わず目を見開いた
早紀の胸元すぐ上に、薄赤い印がつけられている
早紀は慌ててトップスの胸元を引き上げた
胸元を気にしながら5階の自分のオフィスに戻り
何事もなかったかのように吉田に書類とファイルを手渡して自分のデスクに座った