密星-mitsuboshi-
早紀はひとり、ぼんやりと窓の外を眺めていた
頭の中では、通りを歩く渡瀬と篠山里緒の姿を思い返していた
今思えば、付き合っている者同士だけが共有しあう空気感なのだろうか、
2人が並んで歩く姿はとても自然だったように思える
社報に書いてあったことがすべて正しいことなのかは分からないが
篠山里緒は自分よりも多くのものを持っているということだけはわかった
どのくらいの時間ぼんやりしていたのだろう
カフェの店員が隣のテーブルにコーヒーのお替りをもってやってきた声で気づき
柱に掛けられている時計に目をやると
時計の針は20時20分をさしていた
早紀は大きく息をつくと立ち上がり、重い足取りで店を出た
早紀が地下鉄線の東京駅についたのは、
20時50分ころだった
ホームの一番後ろにある乗り換え階段へ向かう
階段を上りきり目の前の改札を出るとそこには大きな柱が2本立っている
早紀はその柱の前に立ち、渡瀬を待った
階段の下で電車がホームに入る音が響き、
少しすると乗り換え階段を登る人達の足音が聞こえてきた
渡瀬の指定した21時まではまだ時間がある
今改札を抜けて早紀の前を通過していく人の中に渡瀬がいなくても
いつかは目の前に現れると思うとそれだけで早紀の心臓の鼓動は早くなった
だが21時を過ぎても渡瀬は現れない
待ち合わせの時間は過ぎているが特に何の連絡もなかった
仕事中にメールや電話はしたくないと思い
早紀からも連絡はしなかった
21時40分を過ぎた頃から早紀は、
次の電車。きっと次。次こそ。
そう思いながら電車の音を聞き、階段を登ってくる人の中に渡瀬を探した
待ち始めた時から比べると、登ってくる人の数も少なくなり
その姿がないことは一瞥しただけですぐにわかった
22時30分
ホームに入ってくる電車の音が響く
早紀が柱の前に立ってからこの電車で何本目になるだろうか
早紀は、この電車に渡瀬が乗っていなかったら帰ろうと決めていた
階段を上り改札を抜けていく人の波が過ぎても渡瀬の姿はない
早紀は目を閉じ、そして深くゆっくりと深呼吸をした
しばらくそうしているとかすかに階段を登る足音が聞こえてきた
早紀の心臓が大きく跳ね始める
足音が改札を過ぎるとゆっくりこちらに向かってくるのがわかる
その足音が早紀の前で止まったのと同時に、
あの甘くて我の強い香りと一緒に温かい手が優しく早紀の頬に触れた
目を開くと、渡瀬がまっすぐ早紀を見つめていた
「待たせて悪かった」
渡瀬はそう言うと、その場で早紀を抱きしめた
頭の中では、通りを歩く渡瀬と篠山里緒の姿を思い返していた
今思えば、付き合っている者同士だけが共有しあう空気感なのだろうか、
2人が並んで歩く姿はとても自然だったように思える
社報に書いてあったことがすべて正しいことなのかは分からないが
篠山里緒は自分よりも多くのものを持っているということだけはわかった
どのくらいの時間ぼんやりしていたのだろう
カフェの店員が隣のテーブルにコーヒーのお替りをもってやってきた声で気づき
柱に掛けられている時計に目をやると
時計の針は20時20分をさしていた
早紀は大きく息をつくと立ち上がり、重い足取りで店を出た
早紀が地下鉄線の東京駅についたのは、
20時50分ころだった
ホームの一番後ろにある乗り換え階段へ向かう
階段を上りきり目の前の改札を出るとそこには大きな柱が2本立っている
早紀はその柱の前に立ち、渡瀬を待った
階段の下で電車がホームに入る音が響き、
少しすると乗り換え階段を登る人達の足音が聞こえてきた
渡瀬の指定した21時まではまだ時間がある
今改札を抜けて早紀の前を通過していく人の中に渡瀬がいなくても
いつかは目の前に現れると思うとそれだけで早紀の心臓の鼓動は早くなった
だが21時を過ぎても渡瀬は現れない
待ち合わせの時間は過ぎているが特に何の連絡もなかった
仕事中にメールや電話はしたくないと思い
早紀からも連絡はしなかった
21時40分を過ぎた頃から早紀は、
次の電車。きっと次。次こそ。
そう思いながら電車の音を聞き、階段を登ってくる人の中に渡瀬を探した
待ち始めた時から比べると、登ってくる人の数も少なくなり
その姿がないことは一瞥しただけですぐにわかった
22時30分
ホームに入ってくる電車の音が響く
早紀が柱の前に立ってからこの電車で何本目になるだろうか
早紀は、この電車に渡瀬が乗っていなかったら帰ろうと決めていた
階段を上り改札を抜けていく人の波が過ぎても渡瀬の姿はない
早紀は目を閉じ、そして深くゆっくりと深呼吸をした
しばらくそうしているとかすかに階段を登る足音が聞こえてきた
早紀の心臓が大きく跳ね始める
足音が改札を過ぎるとゆっくりこちらに向かってくるのがわかる
その足音が早紀の前で止まったのと同時に、
あの甘くて我の強い香りと一緒に温かい手が優しく早紀の頬に触れた
目を開くと、渡瀬がまっすぐ早紀を見つめていた
「待たせて悪かった」
渡瀬はそう言うと、その場で早紀を抱きしめた