密星-mitsuboshi-
「こんばんわ」

三木が先にのれんをくぐり中にそう声をかけると

「おかえり三木君」

中からやわらかくもしっかりした女性の声が返ってきた

「今日は2人なので、
 2席あいてますか?」

「今カウンターしか空いてないけど、
 それでもいいかしら?」

「はい!
 …間野さん、今カウンターしか空いて
 ないんですけど、2席空いてました!
 どうぞ」

三木は入口の前で待つ早紀に笑顔を向けた
店の中はカウンター6席、テーブル4席でそのほとんどが埋まっていた

三木は早紀を空いているカウンター席に案内した
カウンターの中には人の良さそうな年配の女性が1人で切り盛りしていた

「とりあえずビールでいいかしら?」

「はい。あと特性コロッケと、
 おでんおまかせで」

三木は慣れたように注文をするとカウンターの中の女性はにっこり笑っって頷いた

「三木さんは常連なんですね」

「はい。ほぼ毎日来てます」

「毎日?!」

「1か月くらい前にたまたまこの店の前
 を通った時におでんのいい匂いに誘われ
 てから、お母さんの料理が美味しくて
 気付けば毎日夕食はここでとるように
 なってました」
 
「お母さん?」

「あぁ、この店はおかみさん1人でやって
 る店なんですけど、
 優しくて人柄がいいおかみさんをみんな
 “お母さん”って呼んでるんです
 だから僕もそう呼んでます」

そこへおかみが瓶ビールとグラスを2つ持ってきた
グラスを受け取った三木が1つ早紀に差し出した
早紀がおかみの持っているビール瓶を受け取ろうとした時

「初めてのお客様、
 良かったら私に注がせてくれないかしら?」

女将はそう言うとビール瓶を自身の顔の横にあげてにっこりと笑った

「はい、ありがとうございます」

女将の優しい笑顔と心遣いに早紀も自然と笑顔になった
三木とグラスを鳴り合わせ、早紀と三木はグラスのビールを一気に飲み干し
は~!と同時に息をついた
それを見たおかみは

「まぁ、2人ともいい飲みっぷりね」

と笑い、

「じゃあすぐにおつまみ出すから
 ゆっくりしていってね」

そう言ってビール瓶をおくと、カウンターの中へ戻って行った

「素敵なおかみさんですね」

早紀は空になったグラスにビールを注ぎながら
カウンターの中のおかみに目をやった

「はい。
 寮に帰れば食事は寮母さんが適当に用意
 してくれてるものもあるんですけど
 ここに来てしまうんです
 おかみさんの笑顔をみるとなんとも
 癒されるというか」

三木は嬉しそうな顔でそう言うと早紀の注いだビールに口をつけた

「癒される…分かる気がします
 初めて来たけど何か懐かしいというか
 ホッとしますね」

「そうなんです。
 寮に帰っても1人ですし、
 ここにいるとホッとします」

「寮といえば、
 確か地方出身者しか入居で
 きませんよね?
 三木さんは関東の人じゃないんですか?」

「はい。僕の出身は秋田です」

「そうなんですか?!
 勝手に関東の人かと思ってました
 なんでだろう
 …あ。きれいな標準語だからかな?」

「確かに敬語を使っているとあんまり
 訛りは出ませんね
 でも実家の地元の人間と話すと
 どうしても出てしまいますけどね」

そこへおかみが、揚げたてのコロッケと
なんとも食欲をそそるおでんが入った器を
2人の前に並べた

「おまたせしました
 玉子1つおまけね 」

そう言っておかみは微笑んだ

「きたきた
 このおでん、本当に美味しいんですよ
 どの具が好きですか?」

「本当に美味しそぉ~
 大根もらってもいいですか?」

「どうぞどうぞ♪」

味がしみているのが一目でわかるほどの大根を三木が取り皿に取って早紀の前においた

口に入れるととろけるほど柔らかく、少し甘い大根が口に広がる

「すっごい美味しい!」

早紀は目を見開いた

「でしょ?!
 味の加減がちょうどよくて
 美味しいですよね!」

三木と早紀はおかみが出してくれるものにいちいち舌鼓をうった
< 65 / 70 >

この作品をシェア

pagetop