密星-mitsuboshi-
「そう言えば、管理部のシステムトラブル
大変そうでしたね
もぅ解決したんですか?」
「はい、取り敢えず今日はほぼ通常通りに
稼動できました
桃井さんは徹夜作業だったみたい
ですけど」
「桃井さん、担当ですもんね
今回の新システムは何が変わったん
ですか?」
「顧客データを管理するソフトを
改善して、より効率よく請求できる
ようにしたものなんです
今までは僕たちがその日に請求する顧客の
リストを自分達で抽出してたんで
効率悪い部分があったのを
渡瀬課長が上に掛け合って僕たち現場が
より効率よく仕事できるソフトを
システム部に開発させたんです
なにぶん大きなお金がかかるので
なかなか承認がおりませんでしたけど
渡瀬課長が説得したというか
説き伏せたといった感じでしょうか」
「それはトラブったら大変ですね」
「そうなんですよ
渡瀬課長も説明会議やら
報告会議やら大変そうでした
今日なんか少しぐったりしてましたし。
上層部相手に渡り合うのは
本当に神経使いますから」
ぐったり…
ただの神経疲れならいいが
早紀は渡瀬の身体の熱さや手の温かさをふと思い出し、体調が気にかかった
そこへ店の入り口が開き、3人の年配男性が入ってきた
最初に入ってきた白髪の短髪の男性が三木の姿を見つけると
「三木ちゃーん、お疲れ様ぇ」
と景気のいい声で三木の肩をポンと叩きにきた
「ノリさん!今日は遅いですね
しかも五味さんとヨシオさんまで
一緒なんて珍しいですね」
三木はそう言うと、ノリという男性の後ろに続いて入ってきた2人に向かって軽く手をあげた
どうやらこの男性達は、お店の常連のようだ
「なんだ三木ちゃん、
今日は彼女連れてんのか~」
ノリと呼ばれる男は三木の隣に座る早紀の顔をみてニヤっと笑った
「違いますよ、彼女は同僚ですよ」
慌てて否定する三木を差し置いて、
「お嬢さん
三木ちゃんには気ぃつけなよ~?
皆この笑顔でコロッと騙されちゃう
からなぁ」
ノリはそう言って大笑いした
「ちょっとノリさん!
人聞き悪い…
間野さん、本気にしないで下さいね?!」
少し必死な三木をみて早紀も思わず笑いがこぼれた
ノリは三木の肩をポンポンと叩くと、笑いながら3人で端のテーブル席へ歩いて行った
「いやぁすいません、
いい人なんですけど…」
三木は苦笑いしながら頭をかいた
「大丈夫ですよ
仲良しなんですね」
「僕、この地域でやってる草野球チームに
入っててあの3人もメンバーで、
特にノリさん…あの白髪の短髪の人ですが
あの人はチームの選手兼監督なんです」
「三木さん、草野球やるんですか?!」
「はぃ、趣味みたいなもんですけど
もともと身体動かすの好きで
何かやりたいなって思ってたら
ここで知り合ったノリさんに誘われて
やり始めたんですよ」
「へ~意外です
三木さん運動とかあんまり興味ない人かと
勝手に思ってました」
「あはは、よく言われます
これでも学生時代はずっと運動部です」
それからお互いの学生の時の話や趣味、好きなことなど話はつきなかった
途中からノリ達やおかみさんも加わり、気がつけば三木と早紀の座るカウンターの周りで宴会のようになっていた
そのアットホームな雰囲気に早紀は心地よさを感じていた
ノリの身振り手振りの野球武勇伝は特に面白く、
楽しさに時間を忘れ、ふと気付けば店の時計は22時さしていた
そもそも開始時間が遅かった分、普通に飲んでいてこの時間になるのは当然といえば当然だった。
北船橋から自宅までは徒歩時間も含めて正味1時間半は必要だ
0時までに自宅に着くには北船橋発22時半の電車がギリギリだが、
先ほど三木が注文した焼酎が来たばかりだった
「三木さん、私そろそろ…」
早紀がそう三木に言いかけたところに、三木のスマホが鳴り始めた
「あ、ちょっとすいません
電話出てきます」
三木はそのままスマホをもって店の外へ出て行った
早紀は自分のスマホを出すと、渡瀬にメールを打った
“家に着くのが0時をこえてしまいそう
終電までには間に合うので、
帰ったら連絡します”
15分ほどして三木が電話を終えて店の中へ戻ってきた
「すいません
友人からの電話が長くなって」
「いえ、大丈夫です
あの三木さん私…」
早紀が言いかけた時、だいぶ酒のまわったノリが三木の肩に腕を回した
「三木ちゃん!日曜の試合
坂本のヤローがピッチャーやりたいって
聞かねーんだけどよ~」
「あ、今坂本さんからその件で
電話がきましたよ」
ノリと三木の話が始まり早紀はますます帰りを切り出しづらくなってしまった