峭峻記

蛛糸に絡まる妖蝶


蛛猛は、香舜楼のとある妓女の部屋にいた。

甘い香の香りが漂う部屋の中で
蛛猛は妓女との情事を終えて、
寝具の上で横になって、酒を飲んでいた。


「全く、人使い荒いぜ。あいつら。揃いも揃ってこき使ってくださいますよ」


「朱雅様や蘇芳様は、若手の刺士でありながら入団当初から頭角を表して、今の地位まで上りつめた花形刺士。そこまで上り詰めるために、相当な修羅場を渡ってきたでしょうから、そりゃあ、気も強いし、容赦もないのは仕方のないこと。うふふっ。」

そういって、妓女は薄い襦袢を羽織り、乱れた髪を整える。

「確かにな。奴等は、あの鉄の女を師匠にもった、あの御方の元右腕と秘蔵っ子。」

鍛え上げられた強靭な武力を誇り、優れた戦闘能力、知識豊かな切れる頭脳を兼ね備えた、叩き上げの戦士。
同時に執念深さ、性格の悪さ、口の悪さ、性根の悪さもピカイチ。

「そう、雀蓮様の最後の愛弟子たちでしたね。わたくしは、話に聞いたくらいでよくは知りませんけど」

「春蘭は、あの頃は妓女見習いで、忙しく勉強してたもんな。知らねぇよな。」
春蘭は、香舜楼の妓女。
歳は18で、薄紅の髪に蒼玉のような大きな瞳、愛らしい顔立ちをして、巨乳かつ細いくびれに美尻、出るとこ出て締まるとこ締まった抜群の体をもつ美女だ。時に愛らしく、時に色っぽいという、少女にも大人にもなる妓女。
彼女に惚れ込む男は後を絶たない。
かく言う蛛猛も、その一人。

「ええ、蛛猛様。うふふ。···さて、そろそろ、訳を聞かせてくださいませ?わたくしのところにいらしたのは、ただわたくしと夜を過ごして、楽しむためではございませんでしょ?」
そういって春蘭は、とろりとした甘い微笑を浮かべながら、蛛猛の顔を見つめた。

「ふっ···お前さんも感がいいね。春蘭は流伊比衆に顔が利くだろ?····ひとつ頼まれてくれるか。」


「そのお願いは、難しいですわ。」
春蘭は、蛛猛が頼みを言う前にあっさり断った。

「いや、まだ何も言ってないし。門前払いですか?なぁ、せめて内容くらい話させてよ。お願い、聞いてよ。」
蛛猛は、甘えるように言って春蘭の肩を揉む。

「流伊比衆に何のようがあるか知りませんけど?潜入したい的な、人を送る話なら出来ませんから。わたくしがとばっちり食らうのは御免です。」
そういうと、春蘭は蛛猛の腕を掴んで、離させる。

「あ····あははは?(感いいね。完全に見抜かれてるー⁉)···ふっ、とばっちりなんか食わせねぇよ。ちゃーんと守ってやらぁ。報酬、弾むぜ?」

「弾むったって、経費がかさんだらお上様はお怒りになるのじゃなくて?朱雅様はそういうとこ煩い方だって、噂に聞いたけれど?」

「無駄が嫌いなだけで、必要経費にまでけちくさいことは言わねーよ。でなきゃ、蘇芳孃はどうなる?あいつは、金500あったら3日で使いきる勢いで経費使うぞ。」

「まぁ、嬉しい。金800も下さるの?それだけあったら、向こう一年は左手団扇で暮らせるわ」
春蘭は、目を輝かせて言った。
(注✳金500=5000万円程度。奏国では、現在の上級官吏程度の年収です。)

ここにも一人、金の猛者がいた。
(つか、金額つり上がってるし!?)

「弾むぜとは、言ったけど。高くね?そんなには流石に、朱雅さんも···」

「必要経費にけちくさいこと言わないんでしょう?蛛猛様は男気があって粋ですわ。」
春蘭は、そういうと蛛猛に身を寄せる。


琥蓮一、経費使う女(蘇芳)が寄越した仕事だからな、朱雅さんも毎度黙認して平気な顔して任務に駆り出してんだからな。
そう考えると
琥蓮の財源って、どんだけあんだろか?
金1万?下手したら金10万は、下らないかも···。

「でも、流伊比衆に口利きするだけで金800は割りに合いませんわ。金千で手を打ちましょう。」

いや、金額更につり上がってますからー!!やんねってそんなに。破産するわ!

「あら?不服かしら?仕方ないんだから、では金いちま···」

「待て!!わかった。金千出すからっ。何とかする。交渉成立な。詳しい話はまた後日に、それじゃ頼んだ。」

蛛猛は、春蘭の手を握って握手すると、足早に去っていった。


一人残された春蘭は、我が意を得たりとほくそ笑む。
「蘇芳様に感謝···したくもないけど。今回は、美味しい···いえ、厄介な仕事を下さいましたね。」

あの性悪女。嫌い、大嫌い。

「どうせなら、蘇芳じゃなくて朱雅様の仕事だったら、もうちょっとは張りがあるのに。」

朱雅様も、そんなに好きじゃないんだけど。だっていけずな御方だから。

けど、魅力的な御方。


「うらやましい。蘇芳はいつでも朱雅様のそばに行けて。」

うらやましい?違う。憎たらしいのよ
嫌い。

大嫌い。

「あのずのぼせの高慢ちきな高っ鼻が、へし折られてしまえばいいのに。借りてきた猫のようにしおらしくなって枯れ果てたら最高なのに」

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