峭峻記
琥蓮は、守らなければならない制約がある。
それが、琥蓮五ヶ条。
琥蓮五ヶ条
1つ、任務を放棄するべからず。
2つ、琥蓮組織の情報の一切の漏洩を禁ずる
3つ、裏切り行為は、すべからく万死に値する
4つ、蓮華難(れんかなん)発令時、これを緊急特例事項とし、いかなる状況下においても、見習いを含めすべての刺士がその令に従うべし。
5つ、致命的外傷による任務遂行不可、情報漏洩危機の状況下に陥った場合、皆即刻殉死するべし。此則ち琥蓮の流儀なり。
これを、琥蓮五ヶ条とし、皆遵守されたし。
これら制約のいずれかでも犯した場合は、琥蓮の流儀により、漏れなく死が待っている。
琥蓮に入団すると、皆、この琥蓮五ヶ条を遵守する誓いを立てる。
琥蓮に背けば死ぬように仕掛けた特殊な呪を施され、琥蓮に属する限りこの呪により縛られる。
以後、琥蓮の朱塗りの大扉の通行が可能となる。
蛛猛は、右手の甲にある呪の刺青を見た。
刻まれているのは梵字(ぼんじ)
『サク』という梵字とそれを取り囲むように真言が刻まれている。
真言は『我を守りし覚者に誓う、教を破らずこれを守り奉上する』という誓いの言葉を意味している。
見た目は、ただの刺青。
けれど、これが琥蓮という組織の科した重い鎖だ。
琥蓮は、法を掻い潜り悪事を働く人間に罰を与える組織
法の裁きを与えるのは、本来朝廷の刑部の仕事。一般の民がすることではない。
それをするということは、本来重罪である。
しかし、
民に重い税を科し過酷な労働を強いる国の圧政政権のもとでは、正義など通用しない。
腐りきった朝廷には、そんな民を思う官吏などいない。居たとしても、上が腐りきっていれば何も出来はしない。
賄賂、増収、汚い手で官職をもぎ取った自分勝手な能無しが朝廷を牛耳っている。
汚職に手を染めても彼らを罰する人はいない。それどころか、守られている。
平然と悪行を行い、当たり前のように民を苦しめている。
貴族や豪族だけが、まともに暮らせるだけで、平民はほとんどがぼろを纏い、食うに困っている。重い税と労役に苦しみ国を逃げ出すものも絶えない。
そういう国を作った腐りきった朝廷の人間、裏で隠れて悪事を働く人間を、闇に乗じて絶つ。
それが今の琥蓮が請け負う仕事。
「あのぼうずは、琥蓮が正義の味方みたいに思ってんのかね?」
決して、そうではない。
我らの行いも、結局は法に背いて罪を犯している
蛛猛は、手に持った書物をみる。
『自分が正しいと思う志を貫け』
そう言った初代頭領が好んで読んだ書。
読んだところで、何かがわかる訳でもないが、何か考えを巡らせる時は、この書物を開く。
「黒鶯(こくおう)様。今回は、ひと嵐起きそうな予感がします。」