峭峻記

「昔話は、もう飽きたわ。それくらいにして、そろそろ任務の話をして欲しいのだけど?」

蘇芳は朱雅の言葉を遮りそう言うと、朱雅を鋭利な瞳で睨んだ。

「嫌な記憶でも呼び覚ましたか?」

「長話に付き合いきれなくなっただけよ。無駄な時間使わないで用向きをさっさと言え。」

「九弦衆はお前の地雷だったな。すっかり忘れていた。だが、九弦衆討伐任務は蘇芳を伝説にした一番の功績だろう。」

朱雅はそう言うと、侮蔑の隠った視線で蘇芳を見た。

「ふざけろよ。朱雅。いい加減に任務の話をしましょうよ。それ以上その話持ち出したら殺しますよ。」

蘇芳は、殺意剥き出しの形相になり、紫の瞳を光らせ鋭い刃物のような視線を向けて言った。

朱雅は、軽くため息を尽く。

「その殺気をしまえ。別に過去の記憶をほじくり返したいわけではない。だが今回の任務に際して、する必要がある話だからしている。だから、もう少し付き合え。」


九弦衆の話は、蘇芳の地雷。

九弦衆討伐任務は、『冷月の紅天女』の名を世に知らしめ彼女を伝説にした。

だが彼女にとっては、諸悪の根源。

この話を、もし蘇芳の前で部下がしようものなら、もれなく蘇芳によって首が飛ぶ。


「知っとく必要がある内容なら、調書に記載しとけば?ざっと読んだけど、王族がどう死んでいったかとか、奏烈王の姻戚にあった人間たちの素性とか、はっきり言ってろくなこと書いてないじゃない、まぁ今回の任務は王族に関わる何かなんだろうとは予想が着きますけど?何ですか?無駄を省いて簡潔に言ってもらえます。九弦衆は抜きで!」

蘇芳は、話を続ける気はない。
朱雅が王位戦争の話を切り出した時点で、あの匪賊集団の話が出てくるのは薄々わかっていた。

それが任務に関わる話と言われても、蘇芳は九弦衆の事だけは断じて話したくないのだ。

「抜きでと言われても、難しい。九弦衆はもう存在しない組織だ。だがそれに関わる組織が今回の任務には関係する。」

「あれに関わる組織?当時関わっていた匪賊なら全部抹消したはずですけど?」


あの匪賊集団に関しては、蘇芳が一番知っている。

九弦衆は5年前に蘇芳が壊滅させた組織。


食べるものもなく、金もなく、職も家族も家も失い、何もかも奪いさられていった者たちのために、琥蓮は王位戦争時代、暗殺業務ではなく義賊のような事をしていた。

王位戦争当時、琥蓮はある盟約を掲げていた。どんな悪に手を染めても、戦争だけは参加しないという盟約を。 

それを破らせたのが、匪賊によって作られた奏国最大の武装戦力隊。『九弦衆』

各地の匪賊や暴徒を吸収し続けて、その総員数は延べ5万を越えた。

彼らが出てきたことで、龍州の王都までもが破壊されかけた。

だから、琥蓮は討伐に動いた。

国が壊れる前に、戦を壊す。
どの皇子の味方でも誰の味方でもない、ただ奏国という国を壊さぬため。
琥蓮は鬼となり、国崩しの人狩り賊を狩るために錦の御旗を挙げた。


「王位戦争が7年目に差し掛かった頃、各種勢力を取り込み自軍勢力を拡大していった有力派たちの最終戦が火蓋を切った。その時に匪賊軍の首領として指揮をとっていたのが九弦衆。」


「私に九弦衆の説明?不要なんですけど。奴等は、表向き範家の皇子勢力だったけど、他の皇子勢力にも彼らの手の者が紛れていた。皇子たちもその一族もすべて、九弦衆の手のひらで踊らされていただけ。」

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