峭峻記
「だから言ったでしょう?怒らせたら、痛い目見せるって。それと、さっきからギャーギャーうるさいですよ?」
そう言うと、今度は喉に暗器針を撃ち込む。
途端、男の声が止む。ついでに男は、息が出来なくなった。
「私は、うるさい人は苦手で。特に私の上司みたいに何かと口喧しい小舅みたく嫌味垂れる陰険な奴が。」
はぁー。と深いため息を吐くと女は、激痛に苦しみながら、窒息しかけている男を横目に言葉を続ける。
「私の上司はねぇ、とかく時間にうるさい人でして、一秒でも遅れたら延々と嫌味垂れて悪態吐いて、散々言った挙げ句、唯でさえ毎度面倒な仕事ばかり押し付けてくるのに、そこに更に追い討ちを掛けるかの如くクソ面倒なクソ仕事を、鬼のように大量に与えられ、しかも超短期の期限設けられて、期日迄に片付けなきゃまた延々と嫌味言われて、鬼の如くクソ面倒な仕事を押し付けられるという負の連鎖が待ってるのよ。わかる?考えただけで腹立つくらい嫌味タラタラ極悪非道な鬼悪党で、陰険毒舌な血も涙もない鬼なのよ。」
男は、自分の上司の鬼さ加減を言いながら、男の胸に刺さっている暗器針をビシビシと弾き苦痛を与えている。
「まぁ?あんたらにはわからないだろうけど」
男はもはや窒息寸前のところに、容赦ない激痛を加えられ、ほとんど脱け殻のようになっている。
それを見て、女は静かに微笑する
(わ、笑っているぅ?なんて、女だ。というか女か?鬼だろ。つかもういっそ殺せよ。楽になりたいです)
「ったくもう、困ったわ。遅れた理由を何て言ったらいいかしら?···自警団の上層部にあんたらの首を持参して、手を焼いている破落戸掃除に一役買ってたとなればどうかしら?自警団の上層部も喜ぶし、私のクソ鬼上司にももっともらしい言い訳が出来るって思わない?」
聞かれていても息が出来ない男には、答えようがない。ただもう何でもいいからこの苦痛から解放されたいと思った。
(いっそ殺してくれ)
と心から懇願した。
「そんな二束三文にもならない首刈ったくらいじゃ、朱雅(しゅが)様は約束すっぽかしてる蘇芳(すおう)殿を許してくれないと思いますけどねぇ?」
姿なき声がしたかと思った瞬間。
男の体に刺さっていた針が全て同時に引き抜かれた。
男は、地面に崩れ落ちる。
げほげほと咳き込みながら、必死に空気を吸う。
「た···助かった。」
顔を上げて見れば、小綺麗な成りをした20代前半くらいの青年が立っていた。
青年は、細い糸を巧みに操り男から引き抜いた暗器針を回収していくと男の視線に気付き、にこりと笑む。
「私どもの人間が、失礼を。大丈夫ですか?痛い目に遇いましたね。でも、もう心配いりませんよ」
男は、死ぬより恐ろしい恐怖から救ってくれたらしき、その青年が神か仏のように見えた。
(後光が!後光が見えるぅー涙。)