ラグタイム2号店
――大輔さん、ごめんなさい

小突かれた頭をさすりながら、俺は心の中で謝った。

本当は彼女がいるのに、それを言わなかったこと。

その彼女と一緒に駆け落ちをしようとしていること。

長いつきあいの、それも兄貴のように慕っている大輔さんに何も言わずに出て行くこと。

俺は何度も心の中で謝った。

「朝貴、どうした?」

覗き込んできた大輔さんの顔に、
「いえ、何も」

俺は首を横に振って答えた。

日は過ぎて、駆け落ちの日が近づいてきた。

そして、5月4日――静絵との駆け落ち当日を迎えた。
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