君の名を唄う
「一ノ瀬さん」
「ーーあ。おはよう」
一ノ瀬さんのさらさらの髪が、太陽に反射して眩しい。
今日はいい天気だ。
「これ。本当にありがとうございました」
「いいって言ったのに」
一ノ瀬さんは立ち上がると、私の手から傘を受け取る。
その足元には、ノアの姿もあった。
初めて出会ったとき、
とても大人っぽく見えた一ノ瀬さんは、私より1つ年上らしい。
「今日は雨降らないみたいだよ」
「ふふ、そうみたいですね」
一ノ瀬さんの笑顔に、昨日みたいな悲しさは見えなかった。
「私、学校行きますね。一ノ瀬さんは、大学とか?」
「あー。僕は、帰る」
「え?」
「行ってないんだ、学校。今はフリーター」
「そう、なんですね」
「佐倉さん」
「は、はいっ」
突然呼ばれる名前にドキリとする。
「今日、放課後うちにくれば」
「…へ?」
「ノアも嬉しいよね?」
「でも、勉強しなきゃーー」
「ねー?ノア」
ニャー、と嬉しそうに鳴くノア。
不思議に思いながら、ひらひらと手をふる一ノ瀬さんと別れると、
高まる鼓動を抑えながら、私も学校へと足を向けた。