君の名を唄う
放課後。
一ノ瀬さんの家へと向かう。
一体、何故私を家に呼んだのか。
わからないまま少し古びたアパートの前で、
1度深呼吸をしてからインターホンを押す。
ーーガチャ。
「ふ、佐倉さん」
「なんで笑うんですか」
「本当にきてくれたんだなあって。どうぞ」
一ノ瀬さんの笑顔にまた胸が鳴る。
アパートの見た目とはうらはらに、
中はとても整頓されていて綺麗だった。
「一人暮らしなんですね」
「まあね。おいで、ノア」
ノアを抱えると、一ノ瀬さんはソファに座り、そのすぐ隣をポンポンとたたく。
「えっと…」
「座って」
端整な顔に見つめられ、おとなしく腰をおろす。
すると、ノアが一ノ瀬さんの腕をすり抜け、私の膝の上で丸まった。
「可愛い」
自然と溢れる笑み。
「ノアは本当に、佐倉さんが好きなんだね」
そう言うと、一ノ瀬さんはソファと壁の間から、あるものを取り出した。
「一ノ瀬さん、それってー…」
「うん」
その綺麗な瞳が、私を捉えて逃がさない。
「佐倉さん、歌って」