君の名を唄う
「一ノ瀬さんって、意外と強引ですよね」
「そうかな」
そう。
初めてわかった、一ノ瀬さんのこと。
「家に来いとか、座れとか、歌えとか」
「うん」
「でも…」
ーーー嬉しかったです。
そう伝えると、一ノ瀬さんは嬉しそうに、抱えたギターを鳴らす。
一ノ瀬さんのそれはもうボロボロで、何年も愛用しているのが見てわかる。
「ギターが、好きなんですね」
「好きっていうか」
ーー僕はギターに、救われたんだ。
そう楽しそうに話す彼の瞳は、本物の光を帯びていて。
「僕は」
ぽつり、ぽつりと話し出す一ノ瀬さんの話に、私は一生懸命耳を傾ける。
「小さい頃から、色々あってひとりぼっちだった。友達もいなかったし、外で遊ぶのが嫌いで、学校には通ってたけど放課後はいつも家で、本を読むなり、音楽を聞くなりしてた」
私は、こくりと頷く。
「そんなある日、祖父がこのギターを持って僕のとこにきたんだ。たまには何かに夢中になってみろって。
なんでギターだったのかは、今ではもうよくわからないんだけれど」
「…うん」
「僕はこの楽器に、夢中になった」
ギターで、世界が変わったんだよ。
そう言って笑う彼が、なんだかとても可愛らしかった。
「やっぱり、佐倉さんは不思議だよ」
「そうですか?」
「うん。僕、こんなこと話すつもりじゃなかったのにさ」
佐倉さんも、真剣に聞いちゃってるし。
そういってまた笑う。