君の名を唄う
ーーー”ニャー”
「っ、え」
突然の鳴き声。
細くて、だけどしっかりと耳に届く。
少し遅ければ、雨の音に消えてしまっていたかもしれない。
「猫…?」
一匹の黒猫。
左右で違う、綺麗な瞳。
まっすぐと私をみつめるそれに、
今にも吸い込まれそうで。
「こんな雨の中、どうして……」
綺麗な毛並みから、野良猫や捨て猫というわけではなさそうだ。
でも、どうして雨の中外に…?
「とにかく、そのままじゃ風邪をひいちゃう」
手招きをしても、近寄ってみても、黒猫はこちらを見つめたまま、じっと動こうとしない。
「どうしたらーー…」
ハッとして、私は考えた。
そしてしばらくして深く息を吸うと、
静かに、音をつむぎ始めた。