君の名を唄う
ーーーあれから、2年。
私、佐倉(さくら)こずえは、高校生活最後の夏を迎えようとしていた。
「こずえー?帰らないの?」
「うん。今日、日直なの。みんなのノートも持っていかなくちゃいけないし、時間かかりそうだから先帰ってていいよ」
「手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。真由子(まゆこ)は今日バイトでしょ?頑張ってね」
「ありがとう。じゃあ、また明日」
笑顔で手を振る親友の姿に、私もつられて笑顔になる。
静かになった教室で、1人もくもくと日誌を書き、黒板を丁寧に消すと、クラスみんなのノートを抱えて戸締りをする。
「…はあ」
受験を控えた私たちにとって、今年の夏は勝負の夏だ。
”卒業したら、保育園の先生になるために進学するんだー”
真由子の声が、脳内をぐるぐる走る。
真由子だけじゃない。
みんな、当たり前のようにやりたいことが決まっている。
ーーなのに、私は。
「…だめだめ。こんなところで暗くなってる場合じゃない」
また音を紡ぎながら、廊下を進んでいくのだ。