君の名を唄う
揺れる前髪の下で、彼が目を細める。
「そう、なんですか」
「うん」
おもむろにしゃがむ彼を見つめる。
「ーーもともと、捨て猫だったんだよ」
「え…」
地面におろされたノアは、元気よくどこかへ走って行ってしまった。
「5年前、ここでノアを拾った」
人間の無知によって、
人間の身勝手な理由によって、
捨てられてしまったノア。
その存在をも否定されたノア。
ーー胸が、痛くなった。
「……ひどい」
「そうだね」
人間を信じることができなくなってしまったノアが、
初めて彼以外に心を許したのが、私で。
それから。
「君の歌は、ノアの世界を変えたんだよ」
私が、ノアの世界を変えただなんて。