君の名を唄う



「すごく嬉しそうに笑うんだね」

「…え?」



言われて初めて、顔の綻びに気づく。

私は頷いて、



「だって私には、歌しかないから」



ーーだからこそ誰かの世界を変えることが出来たら、

これ以上に嬉しいことはないんです。



そう言って彼の顔を見上げる。



「そっか」



…あ。

またあのときの表情。

初めてあった時にも見せた、悲しそうな笑顔。

息が詰まるような顔。

どうしてそんな顔をするのか、私にはわからない。

わからないから。



「名前を」

「…え?」

「名前を、教えてください」



もっと、知りたいの。



「ーーー僕は」



呟くような彼の声。

……もう、"彼"ではないね。



ーー「一ノ瀬 伊織(いちのせ いおり)」


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