プリテンダー
初めてのデート
土曜日。
僕と杏さんは家族連れや若いカップルで賑わう遊園地に来ていた。
杏さんは珍しそうにキョロキョロ辺りを見回している。
「あれは?」
「ジェットコースター。乗ってみる?」
杏さんは素直にうなずいた。
「よし、じゃあ行こう。」
僕は杏さんの手を握って、ジェットコースターの乗り場を目指す。
杏さんは僕の手を少し恥ずかしそうに握り返した。
昨日の夜、少し遅めの夕飯が済んで、ゆっくりお茶を飲んでいる時。
「明日は出掛けよう。」
杏さんは突然そう言った。
「出掛けるって…どこにですか?」
「知らん。恋人同士というのは、デートというものをするんだろう?」
……変なの。
明日デートしようって普通に言えばいいのに。
「確かにそうですね。休みの日とか仕事の後とか、二人で出掛けたり食事したりします。」
「どこに行けばいい?」
杏さんは恋愛経験がないから、きっとデートもした事がないんだろう。
慣れない話をしている自覚はあるようで、少しソワソワしている。
どうやら照れているらしい。