プリテンダー
「そう言えば鴫野、最近彼女とはどうだ?」

矢野さんが突然そんな話を振ってきた事に驚いて、僕は思わず里芋の煮っころがしを落としそうになった。

「最近あまり会ってないですね。仕事が忙しいみたいで、今日も残業で会えないってドタキャンされちゃって。」

「会ってないって、どれくらい?」

「1ヶ月くらいですかね。」

「1ヶ月も?!大丈夫なのか、おまえら。」

痛いところを突いてくるな。

矢野さんは美玖と面識があるので気になるのだろう。


入社してまだ半年も経たない頃、矢野さんに誘われた合コンで僕と美玖は出会った。

美玖は他の女の子たちより控えめな感じで、派手な女の子が苦手な僕は、美玖と話しているとホッとした。

料理が好きだと言うと、美玖が僕の作った料理を食べてみたいと言ったので、二人で会う約束をした。

初めてのデートには弁当を作って水族館に行った。

あの時美玖は、僕の作った弁当を美味しそうに食べてくれたっけ。

それから次のデートの時に、付き合あおうと言ったのは僕だった。


「付き合ってどれくらいになる?」

「2年です。」

「早いな、もうそんなになるのか。」

杏さんは日本酒を飲みながら、僕と矢野さんの会話を聞いている。


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