プリテンダー
お昼を少し過ぎた頃。

「杏、お腹すかない?」

「そう言えば、少し。」

「そろそろお昼にしようか。」

コインロッカーに預けていた弁当を取り出して木陰に座った。

弁当を広げると、杏さんはまた子供みたいに目を輝かせた。

「これなに?」

「タコさんウインナー。」

タコの形のウインナーが珍しいのか、杏さんは穴が空くほど眺めている。

「これは?」

ウサギの形にしたリンゴを指差して杏さんは尋ねる。

「リンゴのウサギ。かわいいでしょ。」

「うん。」

普通の家庭の子供なら母親に一度は作ってもらったような物が、杏さんにとっては珍しいようだ。

僕も母親には作ってもらった事はないけれど、遠足の時とか運動会の時とか、ばあちゃんが作ってくれた。

僕は杏さんにおしぼりを差し出した。

「ハイ、これで手を拭いて食べて。」

「お箸は?」

「あるけど…お弁当だからね。手で掴んで食べられる物は、手で食べていいんだよ。」

「そう…なの?」

食事に関するしつけが厳しかった杏さんは、きっと食べ物を手で掴んで食べた事なんてないんだろう。


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