プリテンダー
本気を見せろと言われても
デートの翌日。
ダイニングでは、なぜかイチキの御曹司が、高そうなコーヒーカップで僕が淹れたコーヒーを飲んでいる。
杏さんはその向かいに座って、口を真一文字に結んでムッとしている。
僕は出来上がった昼食をトレイに乗せてテーブルに運ぼうとした。
とても食事をするような雰囲気じゃない。
どうしたものか。
事の起こりは30分前。
僕が昼食の準備を始めて間もなく、インターホンが鳴った。
手を止めてドアモニターを覗いた僕は驚いて、何かの間違いじゃないかと思わずモニターをオフにするボタンを押した。
「どうした鴫野?誰か来たんじゃないのか?」
ソファーでコーヒーを飲んでいた杏さんが振り返った。
「いや…来たんですけど…。」
「誰だ?」
「…市来さんです。」
杏さんはピクリと眉を動かして、大きなため息をついた。
もう一度インターホンが鳴った。
ドアモニターには再びイチキの御曹司の姿が映し出された。
「来たものはしょうがない…。通してやれ。」