プリテンダー
僕はなんのためにここに来てるんだっけ?

渡部さんの性欲を満たすため?

僕は渡部さんに何も満たしてもらった事はないし、満たして欲しいとも思わない。

渡部さんは僕とセックスしたいらしいけど、僕はしたくないからしないし、キス以上の事はさせない。

目を潤ませてねだる顔がちょっとかわいいからいじめてやろうなんて思ったりもしたけど、今はそんな顔をしてもなんとも思わない。

いつの間にか渡部さんは、自分が求めると僕が応えるのが当たり前みたいな、飢えた雌の獣のような顔をしている。

正直めんどくさい。

もう一緒に食べるのやめようか。


杏さんと二人で食べてる時は、なんとなく心が満たされた。

ほとんど会話もしないのに、なんでだろう?

杏さんはあれからまた、部署のデスクで一人、カロリーバーを食べている。

昼休みを別々に過ごすと決めた次の日の夜、弁当はおにぎりだけでいいと言われた。

その翌日の夜には、やっぱり弁当は要らないと言われた。

偽物の婚約者の僕とは子供は作れないから、もう用済みなのかな。

僕と一緒にいるのも、僕の作った弁当を食べるのもイヤなのかな。

食べるのが苦手な杏さんが、僕の作った料理を残さず食べてくれるから、少しは必要とされてるのかなって思ってたのに。


< 139 / 232 >

この作品をシェア

pagetop