プリテンダー
不条理な関係
イチキの御曹司が来た日から既に1ヶ月。
何事もなかったように毎日が過ぎていく。
ただ変わった事と言えば、杏さんが帰って来ない日が増えた。
新作の弁当の発売日が迫ってきて忙しいのかも知れないけれど、僕と暮らし始めてからは遅くなっても毎日帰ってきたのに。
杏さんが帰って来ない日は、だだっ広い静かな部屋で、無駄にでかいテーブルに一人分の料理を並べて、一人で夕飯を食べる。
以前は当たり前だった一人ぼっちの夕飯が、今ではやけに寂しく感じてしまう。
一緒にいたってなんの話をするわけでもないのに、杏さんがいないと寂しいと思うなんて。
もうすぐまた元のように一人になるのに、こんなことでは先が思いやられる。
だから僕は、一人でも欠かすことなく料理をして、無理にでも残さず食べる。
今日のおかずはいつもに増してうまくできた。
…やっぱり、杏さんと一緒に食べたかったな。
翌朝、僕はいつもより少し早く家を出た。
杏さんは最近社泊が続いて、まともな食事をしていないはずだ。
僕が食べさせないと、杏さんはカロリーバー以外の物を自分から食べようとしないんだから。
以前の杏さんにとっては当たり前だったかも知れないけど、今の僕はやっぱり見過ごせない。
また倒れたらどうするんだ。