プリテンダー
僕はバッグからおにぎりの入った包みを取り出して差し出した。

「杏さん、朝御飯です。食べてください。」

杏さんは少し困ったように目をそらした。

「余計な気を遣わなくてもいいのに…。」

僕が心配するのは杏さんにとって余計な事なのかな。

軽くショックを受けた。

「余計なお節介ですみません。要らなければ捨ててください。」

僕はおにぎりの包みを杏さんの手に無理やり押し付けて、試作室に向かった。

杏さんが食べ物を粗末にできるわけがない。

一番好きだと言ってくれたおにぎりを、黙って食べてくれるだろう。




新商品の試作もようやく終わった。

結局は僕が作った煮物メインの弁当も、シニア向け商品として店頭に並ぶ事になった。

このメニューの商品化には賛否両論でかなり難航したようだけど、今日の会議で杏さんが他部署のお偉いさんを説き伏せたみたいだ。



< 144 / 232 >

この作品をシェア

pagetop