プリテンダー
僕は渡部さんの背中を優しくトントン叩きながら、どうしたものかと考えていた。

だけどずっとこうしているわけにもいかない。

「ごめんね、もう帰るよ。」

手を離すと、渡部さんはすごい勢いで僕に飛びかかってきた。

ベッドに押し倒されて、強引に唇を塞がれた。

渡部さんの涙がポトリと落ちて、僕の頬を濡らした。

「好き…。鴫野くんが好き…。」

うわ言みたいに呟いて、渡部さんは何度も僕にキスをした。

僕のどこがそんなにいいんだろう?

他にもいい男はいっぱいいるのに、渡部さんが僕に執着する意味がよくわからない。

「やっぱり私、鴫野くんが好き…。私から離れていかないで。」

離れるも何も、元から付き合ってるわけでもないのに。

「そばに居させて…お願い…。」

それはまた僕に性欲を満たす手伝いをしてくれって言いたいのか?

僕の気持ちも無視して?

そこに愛なんてないのに。

「あのさ…もう、こういうのやめにしない?」

「こういうのって…?」

僕は自分の体にかかった渡部さんの体の重みを押し退けて起き上がった。

「今更なんだけど、こういう事はさ…好きな人とするもんじゃないかと思うんだ。」


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